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この世界に擬似転生して3日。おれは母上から言葉の指南を受けていた。まぁ、まるまる日本語なのだが。
そういう設定だからと聞かされてはいたがファンタジックな雰囲気で普通にひらがな、カタカナ、漢字が使われているのは違和感があるなぁ、なんて思いながら母上からのチュートリアルをこなしていった。
母上からのチュートリアルは2年くらいかかった。覚えること多すぎワロス。でも、楽しかったので良し。その間、父上は一度も見ていない。あいつのことは知らなくていいって母上が言っていたから父上のことは早々に頭から追い出した。つーか、顔も声もしらねーから簡単に脳内から消えた。
最終的におれの身長は母上より頭ふたつは大きくなった。全身には苔やら草やらが生えた。草生える。設定上は長命種に転生すると決まってはいたがどんな種族に転生するかは教えてもらえていなかったから身体中にいろいろひっつき出した時はマジでビビって漏らしそうだった。つーか漏らした。泣きたい。
その時に判明したのが母上が魔女だったことと父上が龍だったこと。あんまりピンとこなかったのでスルーしていたけれどもチュートリアルと終えた今なら解る。この組み合わせはやばいわ。ちなみに母上は職業魔女じゃなく種族魔女だった。
そんな2年を終えておれは母上から魔女免状を頂いた。一人前の魔女であると言う身分証である。おれの性別は男だけどな!
デフォルメされた蛇の塊と丸や四角で紋様が描かれた羊皮紙が一枚。しょぼいと思うなかれ出し入れ自在だしお財布機能付きで功績履歴も追記されるスーパー身分証である。
という訳で、おれは旅立つこととなった。まずは街の魔女組合を訪ねなさい。と母上から渡されたのは生活用品もろもろとおれの身長とほぼ同じ長さの棒。チュートリアルで使っていた棒とは違って紋様が細かく描かれていた。この紋様の意味を理解して使えって意味だよなぁ。母上さま、スパルタがすぎるんでない?
歩き出したところで後ろからがんばってねーと母上の激励が飛んだ。これ現実でもやられたよな?
2
住んでいた森から出るのに半年かかるとは聞いてないよ母上ェ……。どこまで奥地に居を構えていたのだか。道中の草むしりに時間をかけすぎたせいもあるから本当のところは知らんが。
森を出ると大草原が広がっていた。教えられた通りに進んでいるなら出てすぐのところに街道があるはずだが視界には入っていない。道を間違えたかな?
まぁ、いいや。草むしりしながら進むとしよう。
太陽が7度昇ったところでようやく集落を発見した。最初に太陽が昇ったところで真反対に出ていると判ったので指定された街へゆくのは諦めた。それよりこの集落だ。遠くから眺めた感じ開拓集落っぽい。
本当に開拓集落ならなんと丁度いいことか。仕事が唸っていそうだ。
集落に近づくと見張り台から一本の矢が飛んできて足元に刺さる。両手を上に棒を地面に突き刺して一本の木になる。そして、旅人ですと大声で言う。見た目はワニが大口を開けている感じだから恐怖感があると思う。敵意がないって伝わってくれるといいなぁ。
しばし時間があって、3人の男がおれに近づいてきて槍を突きつけられる。見張り台からはずっとロックオンされている気配がしている。
どこから来た! と問われたのでここから西に1週間ほど歩いたところにある森から来たと答えた。
仲間はいるのか! と別の男から聞かれたのでいない、ひとりだと返答をした。
身分証を見せろ! と3人目の男が言ったので例の羊皮紙を身体の前に浮かべた。
槍を突きつけられ手を上げたまま羊皮紙を3人の方へ移動させる。3人は目を丸くしたがこれぐらい簡単だぞ。素質があれば誰でもできる。
羊皮紙を手に取り内容を見た3人はようやくおれを集落に招き入れてくれてた。
集落は思った通り開拓集落だった。しかも、出来たてほやほや。やったね!
まぁ、集落側からすれば厳つい龍人が出来たばかりの集落に棒を担いで近寄ってきたら開拓を邪魔するために送り込まれた刺客だと思うよなぁ。おれもそう考えるよ。
集落の中は掘っ立て小屋のような土家が両手の数ほど建っており周りは土塀で囲まれていた。
ささやかに食事を振る舞ってもらった席でおれは率直に言った。この開拓を手伝わせて欲しいと。
その場にいた人たちは無言になっておれを見たので、おれは調薬ができるし力もある、植物属性付きだから植物に困らねーぞ―?と言ったことを遠回しに柔らかい言葉を使って圧力をかけてみた。
相談をさせてくれ、と言う集落代表のゴゴテ氏。おれは食事の席を立ち土塀の外に出て棒を構える。
簡素な門の外に焚かれたかがり火を横目に型をなぞる。
縦に、横に、斜めに。持つ位置を変えて短く、長く。不可視の刃を発生させ薙ぐ、突く。
一通り流し終え獣の気配を探ってみる。土塀には獣避けの紋様が刻まれているらしく近くにはそれらしい反応はない。感知範囲を広げると危険度の高い獣がわんさといる。
おれの歩いてきた方角にも結構いたのだが、おれ、襲われなかったぞ?龍人だからかな?
1夜明けて外に突っ立っていたおれに近づいてくる気配があった。おれを確認しに出てきた3人を護衛にしたゴゴテ氏だ。
ゴゴテ氏は言った。すまないが受け入れられない、と。
まぁ、そうだよな、いきなり過ぎたよなぁ。仕事をしたくて舞い上がっていたな。反省。
とりあえず最寄りの街の情報だけもらって集落を後にした。
グッバイ、集落。グッバイ、大量の仕事。
それにしてもまた歩くのか。小さな開拓集落なら沢山あるらしいが組合やら商店やらがある大きな街へは歩くと1ヶ月くらいかかるらしい。ワロタ。
この世界では国家という概念が薄い。特にこの東側は群雄割拠だ。集落を中心に辺り一帯を名主が治めるものだ。あえて言うなら都市国家かな?士団という軍を持ち各都市国家で連合をつくり、いろいろと融通しあっている。
一旗揚げようと未開拓地を切り開きそれが成長し都市になる。そこから大都市までたどり着けるのは1割も無いらしいけれども。大都市までいかなくても連合に入ることはできるしあえて小都市で調整しているところもあるらしい。おれが今向かっているのも大都市寄りの中都市だ。
しかし、この中都市はこの地域の中核都市となっているため要所だ。組合事務所やら大店やらとりあえずここ辺りに滞在するなら寄っとけと言われる感じの都市である。
件の中都市に到着した。結局、2ヶ月ほどかかった。相変わらず草むしりしながらだからね。
母上の言いつけ通り魔女組合を見つけることからはじめる。
眼が変な色に光るので人前ではやらないが魔視を起動して魔力の流を見る。うーん? 道具屋だ。魔力が強い。
店内に入って店番の人に魔女組合ってここ?と聞く。もちろん客がいない時に。
店番の人は番台をトントンと叩きおれを見た。
おれが首を傾げると、免状を見せな。とぼそっと言った。
免状を生成すると、店番の人はひったくるように取り、まくしたてるように言った。
「あの女蛇の? 息子? しかも相手は龍? くぅー、あいつより先に結婚できると思っていたのに。息子は息子で格好いいしくそぅ、あいつは負け組だと思っていたのになぁ……。それで? あの女の馴れ初めとか聞いてる? 相手の龍はどんな感じ? ね、聞いてる?」
さーせん、途中から音をシャットアウトしてたわ。
父上は見たこと無いから知らね―。だから馴れ初め的なものも全く聞いてない。
ふーん、と店番の人――魔女のイエイェイさん、元気な人――は一応ここが受付だから実績付けとくねぇ、とおれの免状にぺたりと何かを貼り付けた。
「何か見てく?」と厚い本を出してきたがおれは納品をしたかった。草むしりが唸っているんだ。
両手を器にして草を出現させる。それを摘んで魔視を使うイエイェイさん。普通に鑑定だな。
鑑定がおわるとおれは首をガクガクと揺すられた。どこで取ってきた? どんな方法で?ど れくらい持っている? 質問のマシンガンを浴びせられた。この人こういう話し方しかできねーのかよ。
それからしばらく草と薬を納品した。ちょう草むしり、ちょう調薬。草の価格が下がりすぎて怒られたり薬の価格がこっちも下がって怒られたりした。おれ怒られたばっかりだな。
仕事がどんどん舞い込んだので過仕事状態で結局80年ぐらい居座った。異獣の氾濫があったり疫病があったり新人薬師を育てたりとお仕事たのしかったれす。
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