とりかえんぴっく

初月・龍尖

とりかえんぴっく

 

 

 取り替え子。

 ――それは妖精が子供を取り替えるた後に残される子。

 

 

 ユナンは産まれたばかりの子を初めて抱いた時に違和感を覚えた。

(なんだか、重い。あかちゃんってこんなに重いものなの?)

 それとなく夫に伝えてみたが気のせいだと一蹴された。

 義母にも産婆にも伝えたがそれだけ元気な証拠だ、とこれまた一蹴された。

 腑に落ちない疑問を胸に抱きつつユナンは子に乳を与えた。

 がり、と噛まれた気がした。

 痛みはなかった。

 慌てて子の口を覗いてみた鋭い歯は無かった。

 ユナンはじゅうじゅうと乳を吸う我が子にやはり奇妙な気配を覚えていた。

 

 次の日、病院のサロンでユナンは同じ日に出産した母親たちと情報交換をした。

 その途中、ひとりのあかちゃんがオギャアとひと泣きすると一斉に合唱が始まった。

 ユナンたち母親はあやしてみたり乳を与えてみたりと手を尽くしたがなかなか泣き止まなかった。

 ユナンは思い切って言った。

「あなたたちは誰? 私たちのあかちゃんはどこ?」

 その言葉であかちゃんは一斉に泣き止みユナンの腕の中で泣いていたあかちゃんが言った。

「妖精のオリンピックがあってね。その競技中なんだ。しばらくしたらちゃんとあなたの元に戻ってくるから待っててくれ」

 ユナンを含めた母親たちは抱いていたあかちゃんをかごに投げるように入れると1か所に集まってガタガタと震えだした。

 様子を見にやってきた看護婦は錯乱状態になった母親たちを見てただの出産うつだと思った。

 しかし、母親たちはそれ以後自分のあかちゃんを頑なに抱き上げようとしなかった。

 ユナンと同じ日に出産した母親たちはみな自分のあかちゃんをけものとして扱った。

 本当の子が返ってきても、態度は変わらなかった。

 あかちゃんは成長しても再び妖精郷へ向かいたいと思い続けた。

 母親と子の気持ちはすれ違い、子は次々と命を絶った。

 いや、妖精郷へと旅立った。

 

 どの世界にもオリンピックはある。

 どんな形にせよ。

 

 

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