第9話 強要

 自分の入浴写真を瑞稀に送り、鼻歌混じりで浴槽に浸かっていると、突然LINEの着信音が鳴る。ニヤァと悪い笑みを浮かべた後、緑色のボタンを押す。


「お、お前!!お前、あれは一体なんのつもりだ!!!!」


 電話の先で、大声をあげているのはもちろん瑞稀であった。ニッコリとした笑顔を崩す事なく、進は淡々と話す。


「ん?何って僕の入浴写真を一ノ瀬くんに送っただけだよ?」


 頭おかしいんじゃないのか!?という声が瑞稀から聞こえてくるが、そんなものには構わず進は続ける。


「いやぁ、僕の体なんて貧相なものだし、それに男同士だったらこのくらい普通なんだけどなぁ」


 進の言葉に、グッと詰まる瑞稀。瑞稀が言い返してこなくなったのを見て、さらに愉悦の感情が湧き上がる。


「わーかったよ、お前のその写真については、俺が騒ぎすぎた」


 悪かったよ。という瑞稀の言葉に、さらに極悪非道な笑みを浮かべる進。そんな進に瑞稀はさらに続ける。


「ところで、お前あの写真って俺以外に送ったの?」


 そんな瑞稀の質問に、進は不思議そうに首を傾げる。


「いや、一ノ瀬くんにしか送ってないよ。」


 こんな写真、誰かに送れるわけなんてないし、そもそも送れる相手もいないしね、と思いながら正直に答える進。

 

「ふ、ふーん。そうなんだ...。俺だけに送ってきたんだ。進が、私だけに...。えへへへへ」


 何か可愛らしく笑っている瑞稀に対し、進は瑞稀の女の子の部分を意識してしまい、急に自分の行いが恥ずかしくなってしまう。しかし、ここまで来て攻めの手を緩めるわけにはいかない。


「ところで、一ノ瀬くん。僕が一ノ瀬くんに入浴写真を送ったんだから、もちろん一ノ瀬くんも僕に入浴写真を送らないといけないよね?」


 電話口の先で瑞稀が声にならない叫びを上げているのが進にはわかった。


「い、いやいやいや。俺は無理矢理見せられたんだぞ!ていうかなんでお前が勝手に送ってきたのに、俺までそんな写真送らなきゃダメなんだよ!」


 至極当たり前の理屈が並べられる。そりゃそうだよな、と進は思いながらも、進の中の悪魔は、まだまだ闘えると右手を掲げた。


「いやいや一ノ瀬くん。こういうのはさ、送ったら送り返さないといけないんだよ。男の中では、それが当たり前なんだけどなぁ。あれ?一ノ瀬くん、そういうの知らないの?男だったら当然のことなんだけど、どうして一ノ瀬くんは、そのルールに則らないのかなぁ?一ノ瀬くん、男である僕が一ノ瀬くんに入浴写真を送ったんだから、男である一ノ瀬くんは僕に入浴写真を送らないといけないよね?」


 1文字1文字を全身全霊で瑞稀に刻んでいく進。電話口の先では、頭を抱えている瑞稀の姿があった。そして、ついに瑞稀は口を開く。


「わかったよ!!送ればいいんだろ!!!」


 進は歓喜に叫びだしたい気持ちを抑え、右手を上空に突き上げる。そして、ニッコリとした笑顔のまま、うん!!!と瑞稀に返答した。じゃあな!!というぶっきらぼうな挨拶の後、切れる通話。


 そして、それから10分程経った後、遂に瑞稀から進の元に入浴写真が送られてきた。


「いや、嘘だろ!!」


 その写真を見た瞬間、驚きのあまり進はつい叫んでしまった。まず、風呂に入浴剤が入っていない。悠里の写真では、ちゃんと様々な部分が隠れるよう入浴剤を風呂に入れて撮っていたが、瑞稀は違う。透明な湯に入った自分を撮っている。かろうじて胸を手で隠しているくらいで、色々な大変な部分が完全に見えてしまっており、その柔らかな体つきと、悠里に負けず劣らずの豊満な胸。


 そして、シンプルにいつものポニーテールから髪を下ろした瑞稀がとても可愛かった。

 進は声にならない声を上げながら、急いで風呂場を出ると、自室に籠る。


 そこからの進は凄まじかった。進の現在のカメラロールには、悠里と瑞稀の入浴写真があるのだ。ティッシュをどん!と机の上に置くと、あとはもう欲望のままに貪っていった。その途中、宙に浮いたような錯覚があったり、宇宙と沢山の数式が見えたりしたが、進には関係なかった。


 最後まで、絞り尽くした進は尋常ではない疲労感と共にベットに体を預ける。瑞稀や悠里の入浴写真をもらった時は、まだ午前中であったが、今や窓の外は真っ暗になっている。


 進はふとスマホを見てみると、誰かからLINEが来ていることに気がつく。よくよく見ると、そこには葉月 悠里の文字が。恐る恐るメッセージを見てみると、夜の分!という文字とともに、またもや朝とは別の入浴写真が添付されている。


 進はすぅーと息を吸うと、困ったような笑顔を浮かべてズボンとパンツを遠くに投げた。

 結局、進の狂乱は夜が明けるまで続いたという。

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