第6話 実行
カラオケでの一件で、瑞稀と悠里が女の子であると確信を持つことができた進。結局、あのトイレでのハプニングの後、普通に歌って騒いだ進達。なんだかんだで3人はめちゃくちゃ楽しんだ後、瑞稀の「おい、もっと付き合えよ。」の言葉をかわして、進は帰宅した。
色々なことがあって疲れてしまった進は、すぐにベッドに入る。目をつむり、今日体験した出来事を思い出す。最初こそ不安ではあったが、素晴らしい1日であった、と進はニッコリと笑う。
さて、瑞稀と悠里が女の子である確信を持つことができた今、自分がすべき事は何か。と進は考える。自ずから答えは決まったものだ。
復讐という炎に包まれたセクハラ。進が決意を固めたあの夜から、その意思は揺らがない。
今まで自分をパシリに使い、学校でも肩身の狭い思いをしてきた進にとっての憂さ晴らし。進は明日という日を万全に過ごすため、考える事をやめ、眠りについた。
◇
いつもと変わらない朝、進は少しだけ早く学校に着いた。特にやることもないまま机に突っ伏す進。しかし、その表情はとても満足げであった。
ホームルームギリギリになって、瑞稀と悠里がやってくる。普段と変わらない様子で喋りながら席に着く2人。そんな2人の話し声を聞きながら闘志を高める進。
そして、順調に時間は進んでいき、とうとう昼休みがやってきた。いつものように、進をパシリにする瑞稀と悠里。進は晴れやかな顔でパシリを快諾するとスキップで購買に向かった。
進は自身の体のキレが増している事に気がついた。俊敏な動きで人混みをかき分け、いつものように瑞稀には焼きそばパンを悠里にはあんぱんを買う。さらに自動販売機で乳酸菌飲料とコーヒーを買うと進は鼻歌混じりで教室に向かう。
教室に戻ると、瑞稀と悠里が進に声をかける。
「今日はやけに早いな」
「本当だね〜。良いことだよ、進ちゃん」
2人の言葉に、ありがとうございます!と一礼した後、パンと飲み物を配っていく進。さて、ここからだ。と心の中で準備を整え、静かに腰を下ろす。
2人がパンを食べ始め、進も瑞稀の弁当を食べ始める。3人で他愛もない会話をする中、進は仕掛けた。
「そういえば、僕、最近筋トレを始めたんだよね。」
進の言葉に2人は、特に驚いた様子もない。ふーん、と相槌をうつ瑞稀と進。
「まぁ、お前が筋トレしても続かなそうだし、今度手伝ってやろうか?」
瑞稀の言葉に、悠里も、僕も手伝ってあげるよ。と笑って言う。
「またの機会にお願いするよ」
それはそれで魅力的ではあったが、進はあくまでも「すべきこと」に目を向けていた。
「ところで、一ノ瀬くん。僕に手伝ってあげようか?って言ったって事は、結構筋トレとかしてるんだね。やっぱり男だもんね。」
進の言葉に思わず、「お、おう!」と返事をする瑞稀。進は口角を上げる。
「いやー、僕なんて筋トレを始めたは良いんだけど全然筋肉がつかなくてさ、胸の筋肉なんてスッカスカでさ。ちょっと触ってみてよ。」
そんな進の言葉を受け、進の胸筋を触ってみる瑞稀。その胸板は進が言ったように大したものではなかった。
「まぁ、お前も筋トレに精進する事だな」
満足げな顔でまたパンを食べ始める瑞稀。そんな瑞稀を見て、進の中の悪魔は笑う。全ての準備が整った。さぁ、パーティの始まりだ。
「いやぁ、僕ももっと頑張るよ!ところで、僕も一ノ瀬くんの胸筋に触ってみてもいいかな?ほら、お手本にしたいからさ!」
ぶはっ!!と飲んでいた乳酸菌飲料を吐き出しそうになる瑞稀。
「いや!ダメに決まってんだろ!!」
そう叫ぶ瑞稀に満面の笑顔で追撃する進。
「え?どうしてかな?僕も胸筋を触らせてあげたし、男同士だったら、こんなの普通なんだけどなぁ?あれ?もしかして、なんか触らせたくない理由とかあるのかなぁ?男同士だったら、そんな理由考えつかないけどなぁ?」
いやぁ、こんなの普通だよ?と何度も繰り返す進。顔を真っ赤にしてプルプルと震える瑞稀。ニッコリとした笑顔で進は続ける。
「あれ?どうして?一ノ瀬くん!男同士だったら普通の胸筋触らせたあいっこしようよ!!ねぇ、あれ、もしかして...一ノ瀬くん、なんか隠してる?
うーん、僕は頭が悪いからわからないけど、男同士だったら普通のことを極端に嫌がるから?うーん、もうちょっとで答えに辿り着きそうだなぁ。」
そんな事を言い続ける進に瑞稀の限界が訪れる。
「わかったよ!!進!触れよ!!」
そう言って胸を張る瑞稀。3人の中に厳かな沈黙が流れる。先程までは、完全に優勢だった進もこうなってしまえば、対等な勝負。あとに残るのは気合いのみだ。
進はじっと瑞稀の胸を見つめる。恐らくさらしできつくしまってある、あの豊満で魅力的なモノに触れることができるのだ。しかし、彼は冷静であった。いや、冷静と言えば聞こえはいいが、所詮は臆病な童貞なのだ。
ゆっくりと瑞稀の目の前に立つ進。瑞稀はギュッと目を瞑る。近づくとよりはっきりと際立つ瑞稀の端正な顔立ちに進は思わずドギマギして視線を外す。そして、その勢いのまま、瑞稀の胸を両の手で揉んでいく。
赤面する瑞稀と進。そして、進が手を動かすたびに、艶かしい吐息がもれる瑞稀。これ以上は危なすぎる。本能で危険を感じた進は、手を離す。名残惜しそうに進を見つめる瑞稀に、思わず進はときめいてしまう。
「う、うん。やっぱり一ノ瀬くんは結構鍛えてるんだね!」
ほとんど裏返ってしまった声と共に席に座る。そして、次の瞬間には進の席が揺れていた。カタカタとなり出す机。原因は単純であった。
あまりの興奮に一瞬遅れて、鬼のようにそそり立った、進の「進」が机の下面を突っついているのだ。お世辞にも立派とは言えないモノを持っている進の「進」が机に当たると言うことが、その興奮を物語っていた。
顔を真っ赤にして俯く、進と瑞稀。そんな中、今度は、悠里が進の席の隣に椅子を持ってくる。
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