第4話 お誘い
澄み渡るような青空と教室に差し込む日差し。そんな清々しい景色とは裏腹に進の心は陰っていた。
進は机に突っ伏しながら、クラスを見回してみる。いつもと変わらない教室。そう、いつもと変わらないのが問題なのだ。進がロックオンしたのは、もちろん悠里と瑞稀。あんな事が起きた昨日の今日で普通に登校し、普通にクラスメイト達と笑い合っている。
普通女の子バレしたら、もっと焦るもんじゃないのか!?そんな風に考えながらも進にはある疑念が湧いてしまう。それは、瑞稀と悠里は本当に普通の男子なのではないかというもの。
いやいやいやいや!!そんなことはない!!机に突っ伏しながらも力強く首を振る進。そんなはずはないのだ。なぜなら、進は自身の目ではっきりと女性の体と下着を見てしまったのだから。
だが、こんなにも普通に瑞稀と悠里がいつもと変わらない学校生活を送っていると、自身の素晴らしい復讐計画がパーになってしまう。なんとか女の子だという確信は持てないか。
そんな事を考え続け、授業も耳に入ってこないまま、ついに昼休みを迎えた。昼休みになってもぼーっと脳内に渦巻く疑念と闘い続けていると、いつものように瑞稀と悠里がやってきた。
「進、パン買ってきてよ」
瑞稀は相変わらず、進をパシリにしようとする。しかし、なんというか普段ならニヤニヤとしながら進をパシリにする瑞稀が今日はどことなく無機質な感じがした。
「わかりました」
まぁ、考えすぎかな。と思いながらも、進は一直線に購買に向かう。昨日よりはスムーズにジュースとパンを買う事ができ、すぐにクラスに戻ってくることができた。
買ってきたジュースとパンを瑞稀と悠里に渡す。
「ご苦労、進」
「進ちゃん、サンキュー」
2人はそう言うと、パンを食べ始める。もちろん瑞稀は進に弁当を手渡し、進もその弁当を食べ始めた。
普段であれば、2人が進をイジる声が飛び交うはずの昼休み。そんな昼休みに不思議な静寂が流れていた。進にとって、それは好機でもあった。昼休みが気まずければ気まずいほど、この2人が女の子である確率は上がり、そして、この昼休みはかなり気まずい。
進の心の中で、わずかばかりの希望が見え始めた頃、唐突に瑞稀が口を開いた。
「あのさ、進。放課後、ちょっと付き合えよ」
瑞稀からの誘いに進は驚く。目をまん丸にして箸をとめる進に悠里が笑いながら補足する。
「いやー、今日ね。瑞稀とカラオケにでも行こうかなーって思ってたんだけど、進ちゃんも一緒にどうかな?っていうか絶対に連れてくけど」
可愛らしい笑顔で話す悠里に、進はただ頷くことしかできなかった。
「よし、じゃあ決まりな」
瑞稀が最後に締め、それ以降、この3人の中で会話らしい会話が行われる事がなかった。
そして、進は人知れず激しく高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。カラオケに行くのだ。友人と呼べる友人もおらず、人生でカラオケに行ったことなど数えるほどしかない、それも家族と行ったものである歩前 進があろうことかカラオケに行くのだ。それも女子と。
いやいや、まだ女の子だと確定しているわけじゃない。そう頭の中では言うが、心臓は激しくBPMを刻んでいる。とりあえず、口の中にフリスクを勢いよく放り込んだ進。噛み締めるたみに広がる清涼感で彼は徐々に正気を取り戻す。
そうだ、これはチャンスなんだ。カラオケという密室空間で2人に接触できるチャンス。もしかしたら、ここで2人が女の子であるという確信や証拠を得ることができるかもしれない。
いいだろう、やってやるぜ。気がつけば進の目には鬼が宿っていた。
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