九百八十九話目 まだ警戒されているようで
コボルトたちが戻ってきたころには、空にうっすらと星が出始めていた。
日中は少し暑く感じるくらいの気温だったが、今は丁度良く風が吹いている。
漏れがないように幾度かコボルトたちに点呼をさせてから、ハルカはようやく出発することを決めた。
うろついたり寝転がったりできる程度の広さの障壁にコボルトたちを乗せ、しっかりと外縁に落下防止の壁を用意する。わざわざ見えるようにしてやると、何度も昇ることにチャレンジするコボルトたちがいたので、絶対に登れないように内側に傾けて高めに壁を作り直した。
危険がありそうだったら注意をしてもらうため、仲間たちも中に一緒に乗ってもらい、ハルカは障壁のさらに上をナギと並んで飛んでいく。
上から見れば変なことをしているコボルトはすぐに見つけられるからだ。
懸命に穴を掘ろうとしているコボルトがたくさんいるが、流石に障壁を掘り進めるほどの強者はいないだろう。
そっと空を飛んだので、床を見ているコボルトたちは、浮かんでいることにもまだ気づいていないかもしれない。
逆にハルカとナギを見上げたコボルトは、空がものすごい勢いで流れていくのを見て口をぽかんと開けている。コボルトにもいろんな性格のものがいるのだなと、ほほえましく眺めつつ、ハルカは旅路を急いだ。
向かうのは、中洲の巨人の領土内にある山脈だ。
ガーダイマに頼んで、あらかじめコボルトが住んでいる付近に歩哨を立ててもらっている。
木よりも背の高い巨人が立っていれば、すぐに見つけられるはずだ。
数時間飛んでから、今日の移動を終了することを告げ、コボルトたちに自由時間を与える。
相手が子供の場合、この間にどこかへ行ってしまっても困るのだが、コボルトはこれでいて聞き分けがいい。ナギが見える範囲から出ないように言えばちゃんと言うことを聞くのだ。
しっかり休んだハルカは、翌朝、また繰り返し点呼をしてから空へ飛びあがった。
いつもより多く休憩を挟みながら、目的地に向かう。
二日後、ハルカは立ったまま何かの肉を食べている巨人を見つけることが出来た。
ひょろっとしているが、長たちと同じくらいに背が高い。
どうやらわざわざ遠くから見つけやすいように、背の高い者を見繕ってくれたらしい。
少し考えてから、ハルカはコボルトたちを空中にとどめたまま巨人との交渉に向かう。コボルトたちが巨人たちに驚いて逃げ惑っては収拾がつかなくなってしまうからだ。
「あ、すみません、コボルトたちの住まいはどのあたりでしょう」
空から降りてくるハルカを変なものを見るような顔で、というか、実際に変なものを見たと思いながら迎えた巨人たちは、質問に答える前に尋ねる。
「ありゃあなんだ?」
コボルトたちが乗っている障壁は色がついており、上に来れば影ができる代物だ。
完全に未確認飛行物体である。
「あれにコボルトたちが乗っているんですよ」
「はー……、あれが落っこちてきたら俺たちもいっかんの終わりだな」
「いやー、流石陛下だぜ……」
「えーと、ありがとうございます……?」
妙なところで尊敬を集めてしまったハルカである。
「それで、あの、コボルトたちは?」
「ああ、この先にほら、崖があるだろ? あの穴の中に住んでる」
「ああ、やっぱりそうですか」
見た目は平原に住んでいたコボルトたちの家に近かった。
ただ、こちらは入り口の前に狭い通路のようなものも作られている。
巨人が歩いては崩れてしまいそうだが、コボルトたちならば問題ないのだろう。
出入り口がここだけとは限らないが、何とも上手に住まいを作るものである。
「あそこだけですか?」
「そうじゃねぇかな? 俺たちはあそこしか知らねぇよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「うちの陛下は丁寧だな、これでガーダイマに勝つってんだからダークエルフってのはよくわからんぜ」
肉をむしゃむしゃと食べながら、巨人がぼやき立ち上がる。
「俺がここにいるとアイツら出てこねぇから帰るぜ」
「あ、はい、それではまた」
「おう、またな、陛下」
長い足で木をまたぎながら、のっしのっしと去っていく巨人。
未だに自分が王を名乗り、その下にあんな巨人がいるのが信じがたい。
ぼんやりとその背中を見送ってから、ハルカはコボルトたちの家の前へと飛んでいくことにした。
「あの、すみません! こちらに住んでいる方がいると聞いて会いに来たのですが!」
声を張るが、当然のようにコボルトたちからの反応はない。
しばし待ってからもう一度。一応目的を伝えておく。
「東の方にコボルトたちの住む街が有って、そちらに住みたい方を探しています!」
しばらくして、穴の中からばらばらと顔を覗かせ、正面に空を飛ぶダークエルフを見つけると「ひゃ!」と悲鳴を上げて中へ帰っていく。一応聞こえてはいるようだ。
「巨人とは仲良くなりました! もう皆さんを食べないと言ってます! 東の街では、皆さんを食べたり攻撃したりする人はいません! 仲間たちとゆっくり暮らしませんか!」
またばらばらと顔を覗かせ、じっとハルカのことを観察するコボルトたち。
しばらく黙って待ってみるが、コボルトたちから動く気配はない。
「あの……」
何か言わなければならないのかと声を発した瞬間、コボルトたちはまた穴の中へ隠れてしまった。
その後も幾度か声をかけるが、同じことが繰り返される。
これは自分では駄目そうだと悟ったハルカは、最後に「また来ます!」と声をかけて、空に浮かぶUFOならぬ、障壁の上へと戻ることにした。
どうやら仲間たちの協力が必要そうである。
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