九百八十三話目 どう勝つのか

 少し早めにそれらしい場所へやってきたハルカたちは、巨人たちの視線を集めながら静かに時間が来るのを待っていた。

 最初にその場にやって来た長はグデゴロスで、ハルカたちが来ているのを確認するとじろりと一瞥だけして、腕を組んでその場にどっかりと座り込んだ。


 やがて北からやって来たのは、おそらく中洲の族長であるガーダイマで、その手にはすでに武器が握られていた。いわゆるモーニングスターと呼ばれる武器で、その先端についている棘のついた鉄の塊は、人ならば数人まとめて潰してしまいそうな重量感があった。

 ガーダイマは到着するや否や、ドスドスとハルカたちの方へやってきて上半身をかがめた。


「ボドルドンの奴が世話になったハルカというのはどれだ!?」

「……私です」


 ガーダイマは分厚い体格の巨人であり、グデゴロス少しばかり背が低いようだが、体重では優っていそうだ。


「お前が俺たちの戦いに混ざるのか!?」

「はい、お願いします」

「そうか、では死なぬように気をつけろ。ボドルドンを世話した礼に、戦いの後生きていれば俺の配下にしてやるわ!」

「ええと、はい、ありがとうございます……?」

「ハルカ、多分普通の王様なら怒るところだから」

「悪意はなさそうですよ?」


 いうだけいうとガーダイマも仲間がいるところへ戻りどっかりと地面に腰を下ろした。

 そうして間もなくやってきたのが最後の巨人族の長であるバンドールだった。


 こちらもまた背の丈は十メートル程度で、刃がボロボロになった巨大な剣を持っていた。バンドールは他の二人よりも幾分か年老いているように見える。異様に発達した僧帽筋が首を見えなくしており、まるで上半身に直接禿頭が乗っかっているようであった。

 バンドールは細い目でナギをじろりとみると、そのまま歩み寄ってきて、ガーダイマと同じようにハルカたちを見下ろす。


「こんなのを我らの戦いに混ぜるのか。この竜を入れるというのならまだわかろうもんだが。……グデゴロス! 戦いになるのだろうな!?」

「……しらん、そいつにきけ」

「我は力のないものを王とは認めんぞ」


 細い目をさらに細めたバンドールは、片手に剣をぶら下げたまま仲間たちの元へ戻り仁王立ちした。

 それに合わせてグデゴロスとガーダイマが立ち上がる。三人が示し合わせたようにゆっくりと歩みを進めたのをみて、アルベルトがハルカの背中を叩いた。


「いけるよな」

「……はい、勝ってきます」


 不安な言葉が出たら励ましてやろうと待機していたコリンは、それを引っ込めて笑った。


「じゃ、応援してるね」

「はい」


 周りを囲む巨人たちの円が広がっていくのに合わせて、アルベルトたちも移動を始める。むすっとした顔で腕を組んでその場から動こうとしなかったレジーナを、仕方なくイーストンが引っ張っていく。


「勝ったやつが総取りだ」

「言われんでもわかっとるわ」

「今日こそ決着をつけようぞ」

「よろしくお願いします」


 一応聞こえないと困ると思い、巨人たちの顔の高さまで浮き上がって頭を下げるはるかに、六つの目が一斉に向けられる。


「全くもって妙なのを招きおって。戦いが終われば我から一つ伝えねばならんことがある」

「ジジイが! 戦いが終わって生きている気でおるらしい! こりゃ傑作だ、がは、がははは」

「珍しくガーダイマと意見が一致したな。遺言なら今のうちに話しておけ」

「けつの青いガキどもが、意地でも話すものか!」


 三人が三人揃って唾を吐き、それぞれ少しだけ距離を取る。もはやハルカのことなど眼中にないようにも見えたが、念のため同じように距離を取る。


 始まりは原始的なものだった。

 怒りで顔を赤くしているバンドールが「行くぞ!!」と声を発すると、残りの二人が「おう!」と答えて空気がピリリと引き締まる。


 出遅れたハルカは、返事をしない代わりに空に特大の岩の塊を生み出した。十メートル級の巨人でも、勢いよくぶつかればタダでは済まないであろう、巨大な岩の塊を三つ。

 ハルカの方など見向きもしていなかった三人が、迎撃をする体勢を整える前に射出。

 目を剥いた三人は一瞬互いへの警戒をやめて、もはや小山ともいえよう巨大な岩の塊を迎撃することに集中した。

 さすが巨人族たちの長だけあって、この一撃くらいはしのいで見せた三人は、砕けた岩の隙間から、見えた景色に驚愕した。

 空に浮かぶのは無数の、今と変わらぬ大きさの岩の塊。


 ハルカは自分の力を過小評価し、相手の力を過大評価する傾向にある。

 当然の如く、巨人族の長たちが、最初の一撃でどうにかなるなどとは思っていなかった。

 仲間たちとの訓練の時よりも過激に、もし接近されそうならば距離をとりながら魔法を打ち続け、それでも近くへ寄ってしまったら肉弾戦も厭わないつもりだ。


 絶対に負けられない。

 ただし、相手の巨人族の長たちを殺すつもりもない。


 勝手に制限を付け足したハルカの、本気の戦闘が始まった。


 

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