九百八十二話目 豪然
ハルカは仲間たちに事情を説明し、ナギを引き連れて一番西に陣取る巨人たちのもとへむかった。空を飛んでいくと警戒されるかもしれないということで、徒歩での移動である。
巨人たちは出発の時点で各陣営へお帰り願って、事情の説明をお願いした。
自分たちのところに一番最初にとしつこく言われたが、最初に約束したのがグデゴロスの陣営であったため、それは丁重にお断りしたハルカである。
「西の巨人族からの偵察は来てなかったね」
「ちゃんと話が伝わってるってことかもです」
「とりあえず……平原にすむコボルトたちは移転させるつもりだって伝えておきましょうか……」
ハルカはなんだか巨人たちの相手をしていて少し疲れてしまっていた。
根本的に性格が好戦的だから、どうしても緊張してしまうのだ。
気心のしれているアルベルトやレジーナならばともかく、巨人たちにはまだまだなれることが難しそうだった。付き合いが短いせいか、どうしてもかわいげを見出すことができない。
オクタイを代表とする、各地の荒々しい冒険者を相手取っている時のような、微妙な気疲れがあった。
「お話合いですむとは思えないけどなー」
「荒事になる様だったら、アルやレジーナに任せましょうか。一応そんな約束もしましたし」
「おう! まかせとけ!」
元気に返事をしたアルベルトは楽しそうだ。
レジーナも返事はしないけれど、言われるまでもなくそのつもりだった。
やがて一番西にある陣地が近づいてきたころ、あちらからも一人の巨人が歩いてやってくるのが見えた。
手を上げて大きく振って近付いてきたのは、前に一度話したビュンゲルゲだった。
「来たな、グデゴロスには話をしてあるぞ。王というのならぜひ会ってみたいと言っている」
「お久しぶりです、ビュンゲルゲさん。取次ありがとうございます」
「ん? あいつがいないな、リザードマンの」
ビュンゲルゲは目を走らせて、ようやくニル=ハがいないことに気が付いた。
ハルカたち一行の中では大きな体をしているから、一目でいないことはわかるはずなのだが、大きな巨人はハルカたちとニル=ハの大小をあまり気にしていないようである。
「ニルさんは東の街に残って、街をまとめてもらっています」
「東だぁ……? あんたら西の翼と鱗の王なんじゃなかったか?」
そういえば以前であった時は、そんな話を伝えていたはずだ。
今ではすっかりその勢力範囲も広がってしまっている。
何か誤魔化そうかと一瞬考えたハルカだったが、これから長であるグデゴロスと会談することを考えてすぐに諦めた。
「ええ、そうなんですが……。先日この半島の東端にある街のコボルト、平原のケンタウロス、それから砂漠のリザードマンも仲間に加わることになりました」
「そいつは……すげぇ勢いだな。王……、王か」
一瞬目を丸くしたビュンゲルゲは、難しい顔をして腕を組み、しみじみと王という言葉をかみしめた。巨人たちにとってはどうやら王というのは特別な存在のようだ。
「よし、着いてこい。グデゴロスが待ってる」
「はい、よろしくお願いします」
しばらく考えていたビュンゲルゲは、やがて何かに納得したように頷いて振り返ると、ハルカたちを先導するように歩き始めた。
「ねぇ、さっきの話をしちゃうとハルカがすごく危ない侵略者みたいに聞こえない?」
こそっとイーストンに相談したのはコリンだ。
「……普通ならそうだけど、巨人たちなら大丈夫じゃない?」
驚きはしたものの警戒した雰囲気は感じない。
実のところイーストンの言う通りで、強いものが世間を治めるのが当たり前と思っている巨人にとっては、破竹の勢いで勢力を広めるハルカは、賞賛こそされど非難される対象ではなかった。
「なんかなー、巨人たちって、どうしても私の理屈が通じなさそうなんだよねー」
「どちらかというと、アルとかレジーナの方がわかり合える相手だから」
理性的に接したところで、相手もそうするとは限らない。
商人気質のあるコリンや、育ちのよいイーストンにとっては相性のあまり良くない相手だ。殴り合って分かり合う位で丁度いいのが巨人たちである。
巨人たちに見つめられながらやって来た陣営の奥には、一際背が高く、顎髭を長く立派に伸ばした、ぎょろめの巨人が待っていた。
「グデゴロス! 連れてきたぞ!」
「おう、ビュンゲルゲ、そいつが王とか名乗るやつか」
ビュンゲルゲの身長がおよそ五メートル。
座っているからわからないが、おそらくこのグデゴロスはその倍近く身長があるだろう。
ハルカたちはかつて十メートルを超える巨人と戦ったことがあるが、その時の巨人とは比べ物にならないほどの威圧感がある。他の巨人たちが原始的な武器を持っているのに対して、グデゴロスは左右の腰にその体に見合った手斧を装備していた。
「おう、客人。鱗と翼の王よ。俺がグデゴロスだ。いずれ、この三州を治めて王になるものだ」
「ハルカ=ヤマギシと申します。東の山向こうのリザードマンとハーピー、それからこの半島の東端に住むコボルトとケンタウロス、砂漠のリザードマン……そして、人魚もですね。彼らの……、王をしています」
ここではっきりと宣言したのは、自分が誰と関わりがあるかをはっきりと巨人の長へ伝えておくためだった。警戒されるかもしれないというのは織り込み済みで、それでも戦いになれば手ごわい相手だと思ってもらうことも大事だとハルカは判断したのだ。
手を出されないように、連合の大きさを伝えたつもりだ。
「ビュンゲルゲから聞いた話と違ぇな。たった数日のうちにどれだけ勢力を広げた?嘘を言うと為にならんぞ」
「噓は言っていません」
ぎょろめで見つめられて思わず一歩下がりそうになったハルカだが、自分がコボルトたちを守らなければならない事を思い出して、辛うじてその場に踏みとどまった。
巨人たちが強さを偏重していることはハルカだってよく理解している。
しばらく無言のにらみ合いが続き、やがてグデゴロスが先に口を開いた。
「それで、その王が何の望みで俺に会いに来た」
一先ず噓と断じるのをやめたグデゴロスは、厳かな口調でハルカの目的を尋ねた。
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