九百七十七話目 ハルカのお仕事
急な話を飲み込み処理するのには少しばかり時間がかかる。
ニルを連れてきていれば、さっと案を述べてくれたのだが残念なことにあの老獪なリザードマンは留守居役である。
仲間たちと視線を交わしてみるが、いつも通りこういったことには意見どころか興味すらあまりないのが二人。
何か考えてくれていそうな残りの三人に向けてハルカは尋ねる。
「イースさんはどう思います?」
「どうって言われてもね。僕も人魚にはあまり詳しくないけど……、能力に嘘はないし、争いを好む種族ではないんでしょ?」
「そですね」
イースの質問にモンタナが答える。
それからハルカの袖を引くと、背伸びして耳元に口を寄せる。
「不安と期待です。……何か企んでる感じはしないです」
自分の見えているものをハルカに伝える。
細かく話していけば他にもいろいろなものが混ざっているけれど、ルノゥの心を占めている感情の大部分はそれらだ。
「ありがとうございます」
争いを減らすための国である。
内部のその種を潜り込ませたくはない。慎重な判断をするハルカにとって、モンタナの言葉は大事な指標になる。
「問題を起こすような種族でないなら、手をとったほうがハルカさんらしいんじゃない?」
国を動かす父の姿を見て育ったイーストンからも、特に反対の言葉はなかった。
「コリンはどうですか?」
「ん? いいんじゃないかなぁ。もしルノゥさんの言う通り、
「あぁ、そうですね……。確かにそれは……」
商人の血を引くコリンらしい、損得感情を交えたわかりやすい意見だった。何より新鮮で美味しい魚が食べられるのではないかという期待は、王としてというより、ハルカにとって大きなメリットである。
仲間たちは残らず賛成か棄権、ハルカ個人としてもコボルトと仲良くしていた経歴があるのならば、特に問題はないのかなと考えていた。
「……かつてコボルトと交流があったのであれば、きっとまた同じようにやっていくことができるでしょう。今度はリザードマンやケンタウロスも来ることがありますが、そちらに隔意はありませんか?」
元々ある程度の条件をつけられても、庇護化に入ってかつての暮らしを取り戻したいと思っていたルノゥである。
予想していたよりもかなり色良い返事を貰えそうなことを内心喜びつつ、平静を装ったまま返事をした。
「私たちは襲われるようなことがなければ、誰と争いたいとも思いません」
「そうですか……、では移動の準備を進めていただいて構いません。……そうですね、十日ほど時間をいただければ、〈ノーマーシー〉の街にいる仲間にあなた方のことを伝えます。それ以降の到着であれば、歓迎できるかと」
「ありがたいお話です。では、仲間たちにも話を伝えてきても?」
「もちろんです。私もその間に少し休ませてもらいます。出発は……完全に日が昇ってからでしょうか」
「……何もない場所ではありますが、陛下もごゆるりとお休みください」
仲間たちに早く話を伝えるべく、ばしゃんと一度川に潜ったルノゥだったが、すぐに一つ伝えるべきことを思い出して顔だけを川面に出した。
「ご存知かもしれませんが、巨人たちでしたら、この川を遡って行ったところで戦っています。コレまで見たことのない数が揃ってますので、行くのであれば早いほうがよろしいかと」
「え、あ、ありがとうございます」
「いいえ、お役に立てそうな話でしたら何よりです」
今度こそ水に潜ったルノゥを見送ったハルカは、巨人たちが何をしているのか考え込んでしまっていたが、間も無くコリンに手を引かれる。
「ハルカ、ほら早く休んで。レジーナはもう寝てるよ」
話がいよいよどうでも良くなったのか、最後の言葉をかわす前にその場を後にしたレジーナは、すでに外套にくるまって寝転んでいた。
「あ、そうですね」
「難しいことばっかり考えててもしょうがないからね、ほらほら」
「あ、あの、ナギが多分まだ川にいるんですけど」
「はいはい、こっちで何とかするからハルカは休む。……多分さ、今日も巨人と会って話さなきゃいけないから大変だよ。今すぐ決めなきゃいけないこと以外は後回し」
背中を押されて焚き火の近くまで戻ってきたハルカは、言われるがままに休む準備をして寝転がった。
ハルカが一つずつ納得のいくように解決をはかっていたら、それだけで日が暮れてしまう。そのことをよくわかっているコリンは、さっさとハルカを寝かしつけることにしたのであった。
「王様って言ってもハルカは冒険者なんだから、こうするって決めるだけ決めて、あとはニルさんとかに任せちゃえばいいの。元々あの人が色々やらせてるんだから、きっと変なことになっても頑張るって」
「……そうですかね」
「そうそう。なんかあった時は私たちも一緒に頑張るし」
「……そうですね、また移動時間にでも色々考えてみることにして、今は休みます。ありがとうございます」
コリンもはじめに会った時よりは随分と大人っぽくなった。ハルカの中で若い女の子という認識は変わらないまでも、すっかり頼りにしてしまっている。
寝転がってから、今日も情けなかった、と思いつつも、申し訳なさみたいなものは以前ほど感じなくなっているハルカなのであった。
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