十四章 王都ネアクア

二百九十話目 王都へ向かう

 ハルカは昨年の今頃のことを思い出していた。

 暑い中外で肉体労働をして、夜になると皆で集まってその日の報告をする。

 オランズに比べるとこの辺りは随分と涼しい。

 山から下りてくる風のおかげか、歩いていても仲間たちが汗をかいている様子はなかった。


 朝になって出発するときは、随分と盛大に送り出してもらった。

 そのほとんどがコリンに向けて送られた言葉だったのだが。


 振り返ったとき手が千切れるほどに振って、涙を浮かべる者すらいて、実はハルカは少し引いていた。その情熱がちょっと怖いと思ったのだ。


「コリンは何をやってたですか?」

「んー……、訓練に付き合ってただけなんだけどね。なんであんなに皆良くしてくれたんだろう。やっぱり私が美少女だからかな!」

「女が他にいないからだろ」


 余計なことを言って尻を蹴られたのはアルベルトだ。不意打ちだったせいか、なかなかいい音がした。

 追撃をくらわないように距離を取ったアルベルトに、コリンが声を投げる。


「すぐ余計なこと言う! ……あ、そうだ。皆にお願いなんだけどねー、私この先の街で、もうちょっと強い弓を買いたいと思ってるんだよね。ほら、今の弓だと歯が立たない相手が多いからさ。ちょっとお金かかっちゃうと思うんだけど、どうかな?」

「いいんじゃねぇの。必要なものなら買えよ」

「……みんなも武器新しくしない? 私だけ買うのなんか申し訳なくて」

「あー……、王都ならいい武器あるかもしれねぇもんな」


 自分の剣に目を落としたアルベルトが、考えながら呟いた。

 ハルカはそもそも武器を使っていないが、必要なものにお金を使うのを惜しむべきではないと考えている。


「私は特に買うものはないですが……。コリンは防具の類はいらないんですか?」

「指が自由に動かせるようなのならいいんだけど……。それって多分オーダーメイドになると思うんだよねー」

「それでリスクを下げられるのなら、私はいくらでもお金を使ってもらって構わないですよ」

「んんん、費用対効果考えるとなぁ」

「コリン、お金で命は買えないので、投資できるところにはしてください」

「お、おぉぉおお、はい、そうします。ハルカとモン君は欲しいものないの?」


 聞かれてもすぐには思いつかず、ハルカは少し考える。

 食事は必要な分を買っているし、フード付きのローブも気を付けて扱っているので破れていない。モンタナはどうだろうかとみてみると、モンタナもちらっとハルカの方を見ていた。

 何も思いつかないらしい。

 ねぇねぇとコリンがしつこく言っているので、ハルカは無理に絞り出した返事をする。


「……特にありませんが、強いてあげるのであれば、丈夫で大きなカバンとかでしょうか? 私が重い荷物を持つことが多いじゃないですか。それは全然かまわないんですが、たまにリュックの底が抜けないか心配なんですよね」


 思いついたことを言ってみただけだったが、これは意外といい案だったかもしれない。ひねり出してみるものだと、内心自分を褒めてやった。


「そっかぁ、じゃあ一緒にお買い物して、良さそうなの探そうね!」


 ウキウキでそういうコリンをみて、実は買い物の連れ合いを探すために言ってたのではないかと一瞬ハルカは思った。流石にうがった見方だったと首を振るが、コリンの買い物は女の子らしく非常に長いので、アルベルトやモンタナはまともに付き合わないのだ。

 アルベルトはさっさと自分の見たい店を探しに行ってしまうし、モンタナは店先で敷物を広げて物の加工を始めてしまう。


 たまには付き合ってあげるのが、年長者としての務めだろう。


「そうですね、たまにはのんびり買い物をしましょうか。王都では師匠も用事があるらしいですし、時間が取れるでしょう」

「そうですねぇ、流石にたまには顔を出さないと拗ねられますからね」

「そういえば関所でそんなことを言われていましたね。女王様に会いに行くんですか?」

「不敬かもしれませんが、彼女も弟子みたいなものですから。言うなればハルカさんの先輩ですよ」

「先輩ですか。とはいえ私が直接会うことはないでしょうけれどね。王宮に上がるなんて恐れ多いですし」

「今更じゃねぇの。あちこちで貴族にあってるし、女王も侯爵も伯爵も大して変わらねぇだろ」

「アル、流石にそれは……」


 失礼ですよと言いかけてハルカは一度口を閉じた。

 よく考えてみれば今までもあちこちで随分と失礼なことをしてきたように思う。できるだけそうならないように、気を使って話してきたつもりだ。

 それでもこの世界の礼儀作法に詳しくない自分がいくら気を付けたところで、絶対に失礼はあったはずなのだ。

 この世界の偉い人は結構寛容なのだろうか。それとも、ノクトの身分が高いから怒られなかっただけか。

 思考がそれてしまったのを戻して、改めて口を開く。


「流石に王様と諸侯を同列に語るというのは、失礼だと思うんですけど、多分……」

「ハルカもよくわかってねぇじゃん」

「そ、そうなんですけど」

「ま、どうせ会わねぇから関係ねーよな。王様も貴族も斬ったら死ぬし」


 ものすごく不敬なことを言ってケタケタ笑うアルベルトは、間違いなく王宮に連れて行ってはいけない人物だろう。

 街に行くときはアルベルトも一緒に連れて行こうと決めた瞬間だった。




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予約投稿しようと思ったら間違えて投稿しちゃったので、もう一話頑張って書きますぅ……!

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