百七十六話目 土産話
「へぇ、やるじゃねぇか。てっきり姐さんのおまけとばかり思っていたぜ」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「褒めてんじゃねぇか」
アルベルトの武闘祭の話を聞いて感心しているのはトットだ。武闘祭と言う若手の登竜門で成果を上げたのだから、当然の反応だろう。
「俺も来年は出てみるか」
「身体強化できるようにならないと、たぶんきついぞ。決勝戦なんか、俺じゃ手も足も出なさそうな奴らだったからな」
「身体強化か。たまにいつもより力が出るときがあるんだが、中々思い通りにはいかねぇな」
二人の会話を聞いたアルビナが、ぼーっとナッツをかじっていたモンタナに話しかける。
「なー、お前は出なかったのか?」
「出てないですよ」
「ふーん、ってことはお前らのパーティだとあいつが一番強いの?」
アルベルトを指さして尋ねられて、モンタナはぽりぽりとナッツをかじりながら、返答に少し間を空ける。飲み込んでから、結局一言も発せずに、首を振ってそれを否定した。
会話のテンポをずらされるのか、アルビナがやりづらそうに続ける。
「じゃあ、お前とあいつどっちが強いの?」
「僕です」
「じゃあ、お前が一番強いのか?」
被せ気味の返事にまたペースを乱される。モンタナは勝ち負けを気にするタイプではないように見えて、アルベルトとの模擬戦の結果には結構うるさい。次の質問に、モンタナは口にナッツを放り込んでから、ハルカの方を向いた。
アルビナはその視線を追って嫌そうな顔をする。こそこそとモンタナに近づいて小さな声で話しかけた。
「なぁ、うちの先輩がずいぶん気に入ってるけど、所詮あいつは魔法使いだろ?あたしたちがタイマンしたら勝てるじゃん」
アルビナは魔法使いを見下しているところがある。仲間のエリについては、作戦指揮やチームの方針を決めてくれる魔法使いとして一定の敬意を示していたが、それでもよーいドンで戦えば絶対勝てる自信があった。
この街には一人で戦うような魔法使いがいない。強い魔術師であっても、前衛を置かずに一人で戦うような無謀なものはいない。
それが彼女の目を曇らせていた。
尊敬する先輩の勢いのあるタックルを、よろめきもせずに受け止めているハルカを見れば、その異様さを理解できそうなものであったが、曇った目にそれは正しく映っていなかった。
モンタナは同意してほしそうにしているアルビナに、また首を横に振った。
「試してみたらいいんじゃないです?」
「だって先輩に怒られるじゃんか」
「……大丈夫ですよ、きっと」
モンタナはアルビナによってハルカが傷つけられる姿を想像できなかった。もし彼女がハルカに挑んで負けることで納得するのであれば、その方がどちらにとってもいいことのような気がした。
アルビナは腕を組んで考える。確かにいつまでも敵意を持つだけで何も行動に移さないというのは、格好が悪い。ここらで一つ白黒つけてマウントを取ってやろうと思った。
今行くとヴィーチェに捕まってボコボコにされるのが見えていたので、また今度、次の機会に。
アルビナはヴィーチェのことを戦士として尊敬していたが、罰を兼ねた厳しい訓練は辛いので嫌だった。
コリンとエリがヒソヒソ話しているのを、ハルカは何気なく聞いていた。たまに自分の方を見て、うなづいたりにまーっと笑ったりするので気になって仕方がない。
黒髪ロングの色白とかいうのが聞こえてくるところを見ると、ハルカの異性のタイプの話をしている気がする。向きになって否定しに行くと、余計にからかわれる気がして、聞こえないふりをしていた。
さらに言えば、さっきから隣に座っているヴィーチェが太ももを撫でてくる。話にばかり気を取られていると、何をされるかわからない恐怖があった。隣を見て「やめてください」と言えば、「糸屑がついてましたのよ」とか言って、さっと手を引くのだが、しばらくするとまたその手が伸びてくる。
三度忠告をしてから、ハルカはついにヴィーチェとの間に、透明の障壁を張ることにした。セクハラがすぎる。
「ダークエルフは私もハルカ以外には見たことがありませんわ。あれだけ人の集まるヴィスタでもそうですのね、……あら?」
ヴィスタでの話をしながらまた手を伸ばしてきたヴィーチェは見えない何かにそれを阻まれて、首を傾げる。
「魔法で障壁をはりました」
「……お酒に酔っていたとはいえ、少し無遠慮に触りすぎましたわね。もうしませんから、外してくださいませんこと?」
嘘つけ、絶対に酔ってない。ハルカはじとっとヴィーチェを見つめた。
確かに先程からパカパカと強い酒を飲んでいたが、顔色のひとつも変わっていない。あと酔っていなくてもいつもセクハラはされている。
しかしお願いを突っぱねるのも嫌な感じかと思い、ヴィーチェを信じて、ハルカは障壁を外した。
何もない空間をつついて、満足げなヴィーチェは、対面で静かにみんなの様子を眺めていたノクトに話しかけた。
「ハルカさんが障壁魔法を使うなんて、その師匠はやはり本物のようですわね」
「何の本物かはわからないですけどぉ、ハルカさんは僕に会う前から障壁魔法を使えましたよぉ」
「そうですの?」
「ええ、先程話した双子に教わったんです」
「あら、その子たちは優秀なようですわね。男の子なのが残念ですわ」
どこまでも正直な女性だ。彼女の
「女性で有望な方はいらっしゃらなかったの?」
「うーん……、あ、レジーナさんっていう武闘祭で準優勝した方が女性でしたよ」
「ハルカさんから見ても強かったですか?」
「ええ、それに……、強さに執着されているようにも見えましたね」
「……なるほど。いい情報をいただきましたわ」
ヴィーチェの視線が一瞬鋭くなったのを見て、ハルカはなぜだか心の中でレジーナに謝罪をした。何かとても申し訳ないことをしてしまったような気がしたからだった。
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