六十一話目 出迎え
「あ、お帰りなさい。コーディさんたちがいないし……、赤ちゃんがいるね」
心配だったのか、ハルカ達の姿が見えるとレオが駆け寄ってくる。
テオもハルカ達の顔を見ようとはしないものの、レオの後ろについてきていた。
「何があったの?」
「村の人たちはおそらく全滅です。コーディさんたちは生き残りを探したら戻ってきますよ。この子は今のところ見つかった唯一の生き残りです」
「そっか、ダメだったんだね……」
レオは往路で村に立ち寄ったときのことを思い出す。特別に誰かと仲良くなったり、思い出があったわけではなかったけれど、全員がこれから村を大きくしてやろうという気持ちにあふれていて、暑苦しい村だった。
レオはそういう人たちが好きではなかったし、相性は良くなかったけど、碌に挨拶もしない自分たちに笑顔を向けてくれる人たちだった。
全滅と聞いて、心がチクリと痛んだ。
隣を見ると、テオがギュッと口を結んで何かを考えている。単純な子だから、もしかしたら村にいたときの自分の態度を後悔しているのかもしれないと思った。
黙り込む双子の様子を見て、ハルカは何か言ってあげなければと思うのだが、何も言葉が出てこない。口を開けて、閉じて、どうしようか悩んでから、そのことに触れるのは諦めた。心の中で経験値の足りなさを嘆く。
「……林の中に戻りましょう。この子はユーリというみたいですよ。泣き出しもしない、とても賢い子のようです。レオ君、テオ君、年下の兄弟はいませんか?私は赤ちゃんの相手をしたことがなくて困っているんですが」
「いや、俺たちは二人兄弟だから。だけど、荷駄隊の人に子持ちがいるはず」
「それじゃあ戻りましょう、その人にどうしたらいいか聞いてみないと。ほら、手とか小さくてかわいいですよ?」
話題をそらし、森の中にゆっくりと入っていく。
双子もハルカの傍によって、ユーリの手のひらを見たり顔をのぞき込んだりしながらついてきた。
西の地平線にオレンジ色をわずかに残し、夜の帳が降りてくる。
辺りはもう真っ暗で、足元もおぼつかない。
アルベルトが近寄ってきて、腰からカンテラを取り外しハルカに声をかける。
「転んだら危ないぞ。火つけてくれよ」
ユーリを抱いているハルカをちらりと見て、レオがアルベルトに近づき詠唱をする。
「灯火、
「それ、初めて見ました」
「
いつものペースを取り戻したレオが得意げな顔をする。
「ありがとな。俺もそういうの使えたら便利なのにな」
「練習したらできるようになるんじゃない?
「お、おう、頑張る!」
何か思うところがあったのか、レオのアルベルトに対する反応はいつもより柔らかい。テオとモンタナは二人して、そーっとユーリの顔を覗き込んで、観察をしている。ハルカがそれに気づき、微笑ましいなと思っていると目が合い、テオはさっとそっぽを向いた。
「もう、あんたもいつまでそんな風に意地張ってるの?」
コリンが後ろからきて、テオの尻を叩いた。
「な、なにすんだよ!」
「いいから、気になるなら抱っこさせてもらえばいいじゃない。それにさぁ、一緒に旅をしてるんだからいい加減仲良くしようよ。……私たちだっていつ何があるかわからないんだから、折角知り合ったのに無駄に意地張って、ろくに話もしないままお別れなんてもったいないでしょ」
テオは睨みつけるようにハルカとコリンを交互に見つめ、気まずそうな顔をして、ユーリの頭に手を伸ばして優しくなでた。
「こいつ、一人だけ生き残ったんだろ。すごいよな。でも、一人になっちゃったんだろ。俺、何かしてやれないかな」
「どうでしょうか。私も同じことを思ってますよ。コーディさんならいい考えがあるかもしれません。皆で一緒に考えましょうね?」
テオの優しい言葉にハルカは微笑んで答える。
こんな厳しい世界で、人を思うことができる子供たちを見て、ささくれ立っていた心が癒されるようだった。
レオはアルベルトの横に立ったまま、そんなハルカ達の様子を見て、ほっと一息ついて相好を崩した。レオも意地を張るテオがいつ一行に馴染んでくれるのか心配をしていたのだ。このまま意地を張り続けることにならなくてよかったと思い、自然と零れた表情だった。
「……なんだ、あいつもいい奴じゃん」
「そうだよ、僕の弟だもん」
アルベルトは独り言にしれっと帰ってきた答えに片眉を上げて、レオを見る。それからプイっと目をそらして早足になり、横並びをしていたレオを置いていく。
「……お前もな。俺が魔法使えるように、もっといろいろ教えてくれよな」
レオの顔を見ずにそう言って、アルベルトはハルカの横に駆けていった。
残されたレオも、ふふっと笑うとすぐにその後を追いかけた。
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