第27話
「………そういや一週間経つよね?」
昼休み唐突に奈南が言った。
「あ、ホントだ。シズシズが問題児を誘惑してちょうどだね」
紗凪もそれに同調するように言った。
「もぅ〜、ただ意外とシャイなだけなんだよ〜。まぁ、今日もう一回誘惑してあげよっかな」
実際、一度で食いつかなかった、いや、食いつけなかった人もいる。自分なんか相手にされていないって思う人だ。
「あ、これ使おっと」
私はポーチに入っているハンカチを取り出す。
「どうするの?」
「前を歩いてこれを落として拾わせる」
「え?これお気に入りのやつじゃなかったっけ?」
「別にいいのいいの」
こういう堅い相手には少し親密になる必要があるのだ。そのためには多少の犠牲は拭えない。
そうとなればいざ決行だ。
放課後少し早めに教室を出てターゲットを確認する。珍しくターゲットは一人で下校するようだ。私はハンカチを落とす準備をする。
ただし学校の中ではダメだ。他の人が直ぐに拾ってしまうかもしれない。既に周りに私のファンがそこらそこらにいる。
私は先に外に出て校門までの道に少し待っているとターゲットがやって来た。
私はそのターゲットのちょうどど真ん前を歩く。
距離を絶妙に近づける。
(今だ!)
私はさもポーチからハンカチが落ちたようにそっとハンカチを落とす。
「あ、」
(よし!)
私は内心ガッツポーズをする。
「誰かのハンカチ踏んじまった…」
「ええッ!?」
私は咄嗟に振り返ってしまった。
「え?君の?」
「あ…はい」
お気に入りだったハンカチに思いっ切り足跡が付いている。お気に入りだったのに…お気に入りだったのに…
ショックが隠せないでいると、
「あぁ〜、スマン。お気に入りのやつだった?」
「え、あ、いやぁ〜……」
「弁償するわ。お前確か…ウサギだったな」
「ん?ウサギ……?」
わけもわからず聞き返してしまう。
「名前ウサギだろ?」
「………宇佐美ですぅ…」
「あ、スマン……」
二人の間に微妙な雰囲気が流れる。いや、それにしてもウサギはないでしょ……
「じゃあこれで」
そいつは財布から諭吉を1枚取り出して私に渡す。
「え、え?」
「あ、足りない?じゃあもう一枚」
そう言ってあっさりと2万円を渡してくる。
「あ、いや、その」
「あ、スマン。俺今日用事あるから。まだ、足りなかったら俺呼んで、じゃあ」
そう言ってそいつは直ぐに去ってしまった。
「はぁ〜!?なんなのよアイツ!!」
私は手元のお金を見る。いつもならこういう時は嬉しいのだが今回に限っては全く嬉しくもない。むしろ腹が立ってくる。
「本気で落としてやる〜!」
私は走って家に帰った。
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