第4話


「で、あれは何だったんだ?」


松永先生が腕を組んで少し怒り口調で尋ねてくる。俺たちは入学式が終わった後、理事長室に集めさせられた。


「………?どこの話ですか?」

「その緑髪のヤンキーみたいな格好で登場したところだ!」

「ああ、これ寝癖です」

「嘘つけ!!どうしたらライオンの鬣みたいな寝癖がつくんだ!?だいたいお前の髪色は深い紺色だろ!」


松永先生は興奮状態真っ盛りだな。だめだよ大人なんだから…もっと冷静に、落ち着かないと。それだから彼氏ができないんだよ。


「お前今失礼なこと考えただろ!!」


松永先生はまた声を荒げる。俺はそれを避けるようにして耳を塞いで隣を向いた。


「理事長」

「なんだね?」


ずっと静かに静観………頭痛が痛いみたいな表現してしまったな。コホン、静観している松永理事長に話しかけた。


まあ、名字でわかるだろうが、松永隆志。この千夜一学園の理事長で、この松永日和の父親である。


「娘さん大丈夫なんですか?」

「咲夜!!お前パパ……お父さ…理事長になんてことを言ってるんだ!」


松永先生は顔を真っ赤にして怒る。というかパパって、小学生じゃないんだから…、ねえ?


「これだから三十路は」


…………ん?場が凍ったぞ?


あれ、もしかして心の声届いちゃった系?


「………っ!!私はまだ29歳だあぁぁ!」


松永先生は顔をより一層真っ赤にさせて涙を流しながら理事長室から走ってどこかへ行った。


「……大変ですね、理事長」

「……まあ、可愛いものよ。それに隠しているけれどようやく日和にも良い相手が見つかるなんだよ」

「見つかるそう?」


俺は首をかしげた。


理事長は指を組んで一言。








「婚活アプリを入れたそうだ」



(((((ガチなやつだ!!)))))











「それで、なんであんな格好をしてきた?」


しれっと戻ってきた松永先生が俺たちにもう一度尋ねてきた。まだ目が少し赤い。


「だってー、先生が先輩の威厳を見せろっていったからー。ほら、しっかり示したでしょ?」


おっと、部屋にいる先生全員が口をあんぐり開けて呆けているぞ?


「お、お前、先輩の威厳をなんだと思ってるんだ……」

「ヤンキーになって睨みを効かせることだろ?」


理事長は楽しく笑っているが、他の先生達はもう驚きを通り越して呆れている。


「お前らはなんでこんなことをやったんだ?」


松永先生も俺に言っても分からないと思ったのか朱里達に聞いてきた。


「僕は………無理矢理?」

「お前、断れよ!!分かるだろ!!やっていい事と悪いことくらい!!」

「ひぃっ!は、はい!すみませんでした!」


「私は共にこの絶望の世界に光をもたらすことを約束した!」

「お、おお?……でもやってはいけないことがあるのは分かれ!!」



「俺は参考書を奢ってくれるって言ったから」

「おぉーー怒りづらい理由だな!!でも頭良いなら善悪の区別はしろ!!……でも、勉学に励むのは良し、頑張れ!!」


松永先生はツッコミ疲れたのかゼェゼェ肩で息をしながら死にそうな顔をしている。


「そ、それで、はぁはぁ……はーふぅー、生徒会はこの件をどう見るんだ?」


気楽そうにタピオカを飲んでいる生徒会長姫沢に尋ねる。


「んん〜〜」


姫沢は人差し指を顎につけながら首を傾げて少し悩んだあと


「面白かったからオッケー🎶」

「流石ゆいっち〜、やっぱり生徒会長は懐が違うわ〜」


姫沢は俺に向けて親指を立てる。


「「「………………」」」


…………おっと、また俺のせい?いや、今のは生徒会長のせいでしょ。


「おっほん、神崎くんはどう思うかね」


理事長はこの気まずい沈黙を破って生徒会副会長である神崎詩乃に尋ねた。


「え?えっーと、そうですね。確かに悪いことだとは思うんですが、あの山田くんが頭を丸めて改心したと聞いたので、結果的に良かったんじゃないかなと思いますけど…」


神崎は少し戸惑いながら答えた。


「………神崎くんがそう言うなら処分はなしだね」


理事長は指を組みながらそう言った。というか会長に聞いた意味は?


「そうですね、神崎さんがそう言うのなら」

「ああ、神崎の言うとおりだな」

「ああ、俺もそれが良いと思う」


他の先生達も次々に賛成の意を示す。


いや、副会長の信頼厚いな!!会長より厚いじゃん!!



こうして俺たちは少しの注意で無罪放免された。後で副会長にはゴマすっとかないとな。この先お世話になりそうだし。


俺はかつらを取って教室に足早にもどった。

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