ふたたびのとんかつ
「かかくん。私ね」
会うなりれーこさんは切り出してきた。
俺の脳は一瞬で色々な展開を思い描いた。
別れたい? 彼氏が出来た? やはり俺はいらない子?
「私、とんかつが食べたい」
「え、あ、はい」
よくよく聞いてみると彼女はストレス発散においしいものが食べたい! となってよくよく考えた結果とんかつに行き着いたそうな。
と言うわけで例のとんかつ店に赴くこととなった。
新しい季節になって店が繁盛しているかも、なんて期待はあっさりと吹き飛ばされた。
のれんはしっかりとかかっていたが列はなく、扉に張り紙もない。中から人の気配は辛うじて感じる。
扉を開けて覗き込むと中にはぽつりぽつりと客がいた。
昼食時にこれってどうよ、なんて思ったりするがもう諦めも感じている。
推しの店が風前の灯だろうなあ。
そう思ってお品書きを開いてみて驚いた。
一新されている。
フレーバーかつが、あれだけいたフレーバーたちがほぼ一掃されていてシンプルにかつを押し出すメニューに変わっていた。
俺は少し泣きそうになった。
あれだけ頑張って制覇してきたかつたちは俺と、俺と同じ様に常連だった[[rb:客 > せんし]]たちの心の中にしか無いものとなってしまった。
かつ定食を注文し俺はお品書きを隅から隅までなめる様に見る。
小さく何かが書いてあるかも、なんて甘い期待はすぐに打ち砕かれた。
放心状態の俺の前に相変わらず口数の少ない店員がお盆を置いて離れる。
フレーバーが無くなった事で盆の上にはつけダレが乗っていた。
味噌? ソース? 端のかつを少しつけて噛み切る。相変わらずの軽快な音に少しだけ気分が持ち上がる。
そのタレは柑橘系だった。オレンジピールかつを思い出した。
気が付いたら一気に定食を平らげて会計を済ませていた。
「かかくん。泣いているわよ」
とれーこさんに言われるまで全く気が付かなかった。
店を離れて公園でもっと泣いた。
なぜ涙が出たのかは自分では解らなかった。
れーこさんを励ます為の食事だったはずなのに俺が泣いてしまった。
また失敗だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます