奇妙な起死回生

 見るとAPのライフがごっそりと削れている。ほぼ無傷だったのにほぼ半分だ。頭突き攻撃でこれだけ減ったのだから衝撃の展開だった。一瞬静まり返り、一気に会場が沸く。凄い、かっこいい、何今の、というような声や書き込みが空間にあふれる中穹は静かにぽっちょの猫を見ている。


「は~、やるね。今まで攻撃受けまくってたのは非表示でずっとスキル発動条件溜めてたのか」

【これだけひっぱったとなると、条件は最低でも5個以上あったようですね】

「ああ。ライフがぎりぎりまで減る、4ターン以上経つ、殴る以外のスキルを使わない、防御を必要数使う、後は相手の攻撃スキルを何種類か使わせるとかいろいろありそうだな。しっかしライフの調整が相当難しいぞこれ、APが先に上位技スキル使ったら下手すりゃ死ぬだろ」

【偶然でしょうか?】

「いやあ、これは完全に策略と計算だろ。馬鹿キャラに見せておいて実は相当頭いいぞこのプレイヤー」


 話しているうちにAPのターンになり、攻撃を仕掛けるが猫はひょいひょいっと身軽によけて見せた。その動きにわずかに会場のお笑いムードが緊張感あるいつもの試合ムードへと変わってきた。


「回避運動モードか」

【そうですね、そういう設定になっています】

「にしたって、今のAPの攻撃避けるのか。命中95%だぞ、回避にボーナスでもついてなけりゃきついだろ。俺だってたぶん当たる」


 今のAPの攻撃は3ターン目以降に使えるそこそこレアなスキルでほぼ確実に当たる。そういう特性があるとなると、いくら回避運動モードでもよけ切れるかどうかはプレイヤーの能力次第だ。ざっと計算しても1秒間に3回は避けなければならない。野球のキャッチャー並みの動体視力がなければ難しいデータである。

 もはや誰もが気づき始めていた。最初のギャグマンガに出てきそうな雰囲気のキャラではない。この猫、いや、このキャラを操るぽっちょはただ者ではない。

 見れば猫のキャラの顔が変わっている。


「あれは……さっきの」


 先ほどまでアニメキャラのようなクリっとした大きな目が特徴的だったのに、頭突きをしてから猫の顔が変わっている。先ほど頭突きの瞬間もそうだった。まるでハロウィンの化粧のように、どこか不気味な雰囲気のペイントが施されていた。目のハイライトは消え、その代わり瞳の中には何かの模様が見える。


 ―――模様……いや、文様か? 確かあの形、雪輪だったか―――


 この奇妙なペイントが先ほどの頭突きの瞬間見えたのだが、誰も何も言わなかった。


【どうしました、穹】

「……どうしました?」


 まるで何か起きたのかとでも言うようなシーナの言葉に違和感を覚え一応確認する。


「シーナ、あの猫の見た目開始時と何か変わったところはあるか」

【いいえ、特には】

「お前あの猫どういう顔に見える」

【どういう? 猫にしか見えません】

「俺には変な模様書いてある化け猫みたいな感じに見える」


 穹がそういうとシーナは一瞬沈黙し、穹の目の前に操作盤パネルを表示する。


【穹、ログアウトを。すぐにメディカルチェックが必要です】


 穹は普通の人よりも脳で感じる映像や感覚が敏感だ。体に怪我や痛みが再現されてしまう原因と同じものなのだろうが、いくら検査を受けても詳しい原因はわかっていない。だから人と違うことを感じたり見聞きした場合は体調チェックを欠かさないようにしているし、その役目はシーナだ。


「いや、たぶんそういうのとは違う」

【しかし、先ほども眩しがっていました】

「過敏に感じてるのとまったく違うものが見えるのは違うだろ。さっき眩しかったのとこれはたぶん別の原因だ。体調チェックは後でちゃんとやる」

【わかりました】


 納得はしていないだろうが最終的な決定権は穹だ。穹が否と言えば否、シーナにそれ以上言うことはできない。それに穹の言っていることも一理あった。痛みの再現などはその経験をすることによる延長戦、いわば到達点だ。痛みを感じたから最終的に体でも再現されるという式と答えが成り立つ。しかし違うものが見えてるのは意味が全く違う。


「あの状態になったら雰囲気が変わった。スキルによる影響、なのかもしれないけどわかんねえな。スキルによっては確かに見た目が変わるのはあるけど、俺にしか見えてないなら違う」


 あれだけの攻撃力を誇るスキルを持ち出したのだ、おちゃらけた雰囲気は終わりで本気を出すぞという意味合いなのかもしれない。可能性としてはあるが、穹にはいまいちそう思えなかった。

 試合は猫の番だ、APはこのターン防御となる。しかし何もせずにターン終了宣言をしてAPのターンとなった。何か狙っているとしか思えない。罠には違いないのだが、何もしないわけにもいかない。どのみちぽっちょのライフは風前の灯火だ、何か攻撃が当たれば絶対に勝てるところまでは来ている。


「これ、ちょっとAPがヤバイかもな」

【APが勝てそうなのにですか】

「これで次のターンでやられるようならあんなところでぽっちょがスキル使う意味が分からん、やられる直前でやったって勝てないだろ。これだけのライフ差があっても勝つ気でいるだけの仕込みがしてあるんじゃね?」


 APのターンとなり、何か特殊効果をつけたようなエフェクトが入って攻撃に移る。おそらく攻撃ターンでも使える防御をつけたのだろう。通常防御の半分しか効果がないが、これで一撃死は避けられるはずだ。APは銃スキルを好んで使う。銃は遠距離攻撃ができるので近づかないと攻撃できない近距離攻撃と相性がいいのだ。それに命中が高くつけられる追加効果やスキルが多い。その分一撃の攻撃力は弱いデメリットもある。APはそれ等をうまくカバーした戦い方をしているのでバトルがもたついたりはしないのが人気の理由の一つだ。先ほど回避されたのを考慮したのか、回避が難しい広範囲攻撃ができる散弾銃を使った。これが当たれば勝てる。

 しかし、ぽっちょはファイティングポーズを取るとよけようともせず真っすぐ迎え撃つ。目にもとまらぬ速さで両腕からパンチを繰り出し、銃弾をすべて破壊し始めた。


「カウンター? あれが?」


 穹も思わず驚きの声を上げる。基本相手の攻撃を無効か防いでからカウンター攻撃をするが、攻撃そのものに攻撃を畳み掛けるカウンターは初めて見た。しかも全弾命中している。ということは、このカウンターは散弾銃の命中率をはるかに上回る命中率が設定されていることになる。散弾銃の命中率と広範囲設定はかなり命中率が高かった。そんな高い命中率のカウンターなど発動条件はかなり厳しいはずだ。


「マジか。あの必殺技だけじゃなくこっちも同時進行してたのか?」


 オリジナルスキルは使用条件が一つ一つ独立した内容でなければならず、同じ発動条件は設定できない。二つのスキルを同時進行するなら、それだけたくさんの数の条件が必要となる。いつやられるかもわからない中、自分が使えるスキルを制限までしていたのに。

 低ランクのユーザーや観客は盛り上がっているが、ある程度ランクが上のユーザーは一体どんなスキルをつかったのかという話で盛り上がり始めている。

 攻撃をまたすべて遮断されぽっちょのキャラにダメージはない。首の皮一枚でつながっているような状態なのにあと一歩が届かない現状に観客からは妙な熱気が生まれ始めていた。


「こっからどうやってひっくり返すのかな、あいつ」

【ぽっちょのスキル内容が読めませんからね】

「攻撃されまくってたぽっちょには最強レベルのカウンターが使用条件揃ってて、たいしてダメージ受けてないAPはたぶん大した条件クリアしてない。今有利なのはぽっちょの方だ。さっきの攻撃そのものに対して攻撃するっつーカウンターも一見意味不明だけど、あれ自体が次のスキルの発動条件っぽいな」


 相手の攻撃をすべて無効化するか、回避運動のように自力で自分の攻撃を相手にすべて命中させるか。いずれにせよツキが回ってきたウノのようにすべての行動が紐づいて自分の手札がどんどん消費されていっている。ここまでくると見ごたえもあり、掲示板で騒がれ始めどんどん閲覧者数が上がっていく。

 ぽっちょがコミカルな戦い始めたあたりから穹はぽっちょのユーザープロフィールを見たが目立つことなくいたって普通だった。他の奴らはこんなところに伏兵が、と盛り上がっているが穹はそんな気分になれない。

 今まで目立たないようにしていたのかもしれないが、このスキル発動条件をこなすのは言ってしまえば異常だ。もし偶然が重なってこうなったのなら本当に運が良かったとしか言いようがないが、おそらくぽっちょはすべて計算してこの戦いをしている。頭がいいなんてものではない、天才だ。


 ぽっちょのプロフィールを見るとユーザー登録は半年前、それで今このランクというのもなんだか腑に落ちない。これくらいの実力があるなら楽に全勝しているはずだ、それならもっと高いランクにいる。勝利や高ランクにこだわらないタイプなのだろうか。


 次はぽっちょのターン。何も道具を持たず真っすぐAPに向かって走り始める。最初のときはのったのったと遅く走りヘロヘロな拳で殴り掛かっていたが、今のぽっちょのキャラは走る速度が異様に速い。目で追うのがやっとだ。殴るかと思ったが繰り出されたのは蹴りだった。まるで格闘技のようにすさまじい勢いで放たれた蹴りはAPの防御により防がれたがライフがまた大きく削れる。あの蹴りもただの蹴りではなくいろいろなスキル効果が付いた蹴りのようだ。

 攻撃を受けたことでAPのカウンターが起動する。APのキャラの周囲に3つ浮遊する大型の銃が現れた。銃スキルの定番で攻撃を受けると銃で反撃するというものだ。基本的なスキルを使うAPらしい反撃と言える。レーザー銃のようで、銃口が鈍く光りぽっちょに照準を定める。


 しかし次の瞬間、どこからか赤い光線のようなものが飛んできてすべての銃が爆発して完全に破壊される。どよめきが起こり、誰もが何が起きたのかと呆然とする。モニターを見ればぽっちょの方にアンチカウンターが表示されていた。つまりAPがカウンター攻撃をしたら起動するトラップがセットしてあったのだ。

 光線が飛んできた方を見れば、最初に持っていたぽっちょの拳銃が宙に浮いている。あれは最初の攻撃でぽっちょが攻撃をミスして銃だけ遠くにすっぽ抜けた時の物だ。まさかあの銃自体にもスキルが付いていたとは。


「手から離れた武器ってスキル使用問題ないんだっけか」

【指定されたターン回数による発動条件であれば問題ありません】

「なんなのあいつ、未来予知能力でもあんのか」

【ないと思います】

「わかってるよ」


 シーナに冷静に返されるとますます気が滅入りそうだ。つまりこのタイミングで相手が攻撃してくることさえ計算の上だったという事になる。しかもAP本人にダメージがいくのではなくあくまで行われたのは武器破壊だ。使用武器を一つ壊されじわじわとAPの首が締まっていく。

 防御はしたが通常のぽっちょの攻撃は通ったのでAPのライフもだんだん余裕がなくなってきた。今APが何かをすれば確実にぽっちょがそれを覆すスキルを使ってくるような状況だ。客の中には当然APのファンもいるので、ピンチのときこそ底力を発揮するAPに期待の声が上がり始めていた。


 何故かはわからないが、その様子を穹はやや緊張した様子で見守っていた。ぽっちょがあまりにも今までにいないタイプでこの先の展開が全く読めないからだ。もし自分が戦っていてもこの状況では活路を見出すことはできない。この状況を脱するならスタート時にいろいろと準備をしておかなければ。自分が戦略を売っていた時に信条にしていたが、このゲームは2ターン目までに何を仕込むかによってその時点で勝敗が決まると言っていい。この勝負、このままいけば確実にAPは負ける。


 APのターンとなったがしばらくじっとして動かない。一人の持ち時間は30秒なので考えているのだろうが、誰もがAPの次の手を待っていた。すると持っていた武器をすべて捨てて、右腕を前に出す。武器の廃棄は攻撃力が大幅に下がる代わりに他のスキル発動を手伝う効果がある。その代わり次のターンでは捨てた武器はすべて使えないので、まさに次の一手にすべてをかけるときに使う最終手段だ。この流れはついにきた!と騒ぎ始めるAPファンの書き込みに、一気に会場が盛り上がった。


 APの右腕には一つだけ武器が残っており、それは拳銃だ。アンリーシュ登録すると近接、遠距離など基本的な武器と攻撃のスキルは最初からいくつか持っていて、拳銃はその中の一つだ。威力がいまいちな上一回につき一発しか撃てないので強い武器が手に入ればまず手放す武器の一つである。

 狙いを定めるようなモーションが入ったので今命中率がかなり上がったようだ。少しの沈黙があり、そしてトリガーを引く。ぽっちょは防御や何かスキルを使用したようだが弾は防御を貫通してぽっちょのキャラの額に命中した。防御無視、貫通、命中、カウンター無効など多くのスキルがこもった一撃だったのだろう。防御してからの、それらをすべて突破した一撃に会場は歓声が上がった。倒した、という声が上がり見ればぽっちょのキャラのライフはゼロになっていた。しかし采が冷静に宣言する。


《ぽっちょのカウンター。弱点を突かれた攻撃によりライフがゼロになったら相手に反撃》


 え、と誰もが見守る中ぽっちょのキャラがゆっくりと倒れそうになる中、猫のキャラが光りエンジンでも噴射されたかのように勢いよくAPに突っ込んでいく。ただし、頭だけ。

 会場から頭のロケットパンチだー! と声が上がり頭はAPのキャラに突撃した。


「え」


 当たった瞬間、頭が轟音とともに爆発する。APのライフは残りわずかとなったがかろうじて残り、この対戦はAPの勝利となって終わった。興奮冷め止まぬ大盛り上がりの中穹は静かに会場を出る。頭の中は先ほどの光景でいっぱいだった。

 頭が飛んだ瞬間はさすがに驚いたが、その頭がAPのキャラに当たった瞬間だ。爆発する直前、確かにAPの前に防御時使う盾のエフェクトが見えた。しかし試合中は防御など出ていないしバトルログを見ても防御使用の記録はない。それにあの防御エフェクト、見たことがない。デザインが無数に存在するとはいえ、ゲームではファンタジーのような魔法陣のようなデザインの物が好まれる。先ほどの防御は光の線が組み合わさった文様に見えた。


 テトラポットのような形が複数折り重なっているあのデザイン、確か日本独自の文様であったはずだと検索すれば毘沙門亀甲という文様だ。おそらくぽっちょの見た目が変わった時と一緒で穹にしか見えなかったようだ。ヘッドセットを変えたから見えたのだろうかとふと思ったが、人工知能であるシーナが見えていないのも不可解だ。いずれにせよ試合は終わったので一度ログアウトをした。

 シーナが穹の体調確認をしている間先ほどの試合についてできる限り情報を集めたが、違和感を訴える内容はなかった。ぽっちょの人気はうなぎのぼりとなりAPの反撃もたたえる声が多い。


【体と脳に異常はありません。ヘッドセットとの互換性も良好ですし、光演出が過剰に感じた事は不可解です。これは穹に原因があるのではなく、あの時の演出そのものに問題があったのではないでしょうか】

「使っちゃいけない光なんてないけど、明滅とかで意識に影響出るっていうからな。俺みたいな体質の奴だけはどんだけヘッドセット変えようが設定いじろうが、効果ないモンもあるんだろ。まあそれは重要じゃないからいいや、問題はそっちじゃなく」

【はい。ぽっちょのキャラの見た目が変わったこととAPが最後の攻撃受けるときの防御演出についてですね】

「念を押すけど、シーナは見えなかったんだよな? 最後の防御」

【はい。最後まで映像確認していましたが見えませんでした。試合のリプレイを見ても同様です】


 穹もリプレイを見たが穹があの時見た光景は映っていなかった。ぽっちょのキャラも普通の顔をしていたし、最後の防御エフェクトもない。リプレイはあくまで録画映像を見るに過ぎない。あの演出を直接脳で見ているのとは違う。あの時、あくまで自分の脳で「見て」いた者にしかわからないことだ。まさか観戦していた客全員にこんなことなかったかなど聞くわけにもいかない。


「もし本当にあの時防御したなら防御があったからライフが残ったことになる。試合上では防御してないから、違法ってことだよな。証拠ないから言わないけど」

【APはハッカーで違法行為をしたということでしょうか】

「どうだろうな。たとえそうでもあんな大勢の中何かやれば運営にも客の中にも誰か気が付く奴いるんじゃないか」


 言いながら穹は最後のAPの攻撃映像を見ていた。ライフがほぼないぽっちょは攻撃をしのげるだけの防御や特殊効果を発動していたようだった。それらをすべて貫いたAPの攻撃は不可解なことが多い。あの戦いの中、果たしてあの一撃が出るだけの条件を揃えていただろうか。それに何より一番謎なのはあの時采の発言。


「ぽっちょの最後のカウンター、弱点を突かれた攻撃で発動するカウンターって言ってたな」

【言っていました。ぽっちょの弱点とは何だったのでしょうか。あの戦いで弱点を見抜けたとは思えません】


 プレイヤーは使用するスキルの数や種類によって細かく計算され必ず一つ弱点が設定される。計算方法はアンリーシュ独自の方法らしく、この弱点計算の法則はいまだ誰も見つけていない。不定期に計算方法が変わっているという噂もあるくらいだ。もちろん自分がプレイするときはスキルをセットした時点で自分の弱点は表示される。試合前にスキルは自由に変えられるので、弱点に納得いかなければスキルを変えることもできる。対戦相手の弱点を知る方法はただ一つ、攻撃してみてライフの減りが通常よりも多ければ弱点とみなすか、今回のように弱点を攻撃されたら初めて使えるスキルを使用するとき采が宣言したりする。

 後者はほとんどないうえ、前者は防御や特殊効果によってダメージ幅など変わってしまうので正確な数値はわからない。現状相手の弱点を的確に知り攻撃するのはほぼ不可能に近いとされていた。


「弱点を突いたのが偶然かどうかは別として、なんで弱点つかれたときだけ発動するっつー条件にしたんだぽっちょは」

【そのことについての回答は一つしかありません。穹も予想していると思いますが、ぽっちょはAPが終盤弱点を突いてくると予想していたということです。あの戦略を見る限りではぽっちょはその予想と対策をしていておかしくありません】

「それだとAPが弱点攻撃得意だってことになって、それをぽっちょは知ってたってことだろ。あー、なるほど、そういうことか」

【APは危険な時必ず起死回生の一撃を放ってきました。それがすべて弱点を突いた攻撃なら穹の予想とも合致します】

「ぽっちょがそれを予想したのはまあわかるわ、俺でもなんとなくわかったくらいだからな。となるとAPは何で相手の弱点つく攻撃が得意なんだって話だな。……ん、あ、そっか。それ確かめるためにぽっちょは今回これやったのか?」

【ぽっちょはAPの戦い方に違和感を持っていた。不可解なダメージは弱点を突いた攻撃ではないかと思い、その攻撃を誘発するためにああいった戦い方をして最後にトラップも仕掛けていたということですか】

「どんな脳みそしたらそんな戦い方組み立てられるんだよ。考えんのやめようかな。俺には関係ねえし」


 もともと自分と同じ体質かもしれないという興味から首を突っ込んで別の方向にいっただけで、このからくりを解き明かそうとは思っていない。要するにぽっちょにもAPにも絡むのをやめておこうという結論になっただけだ。


【穹、だいぶ疲れているようです。休息してください】

「だなー……ちょっと疲れた気がする。このままちょい寝るわ」

【わかりました。穹、ヘッドセットは外してから寝てください】


 シーナが声をかけたが穹は「んー……」ともはや寝言に近い返事をしただけだった。これは取らずに寝るだろうと予測を立てているとあっという間に寝息が聞こえてくる。サングラス型のヘッドセットならまだしも今つけているのは頭部側面をぐるりと覆うくらい大きいものだ。多少薄型にはなっているようだが寝心地が良いとは思えない。

 試しに穹に呼びかけたり腹の上で飛び跳ねてみたが全く起きない。シーナの体重では大した刺激にはならないだろう。物を叩きつければ起きるかもしれないが、結局起こすことを諦めた。寝ているのなら寝ていてもらいたいというのがシーナの出した答えだったからだ。

 ヘッドセットと手足につけているコンタクトパーツを完全に電源から遮断し各機材がダウンしていることを確認してからシーナも待機モードに以降した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る