チーム戦

 シーナにつけていたカウンターを発動する。シーナにも回復はつけていたが穹とは違う種類の回復で受けたダメージの半分を回復できるというものだ。これでシーナのライフは4分の3に戻った。

 次は相手の二人目のターンだが特に攻撃はしてこない。スキルを見ても攻撃型ではなく支援型、今おそらく仲間の攻撃力を上げ特殊効果を使っているところか。特に大きな動きはなく終了となり穹のターンがくる。こちらの操作パネルにカウンター発動条件が整った通知が表示されているので、相手が何かカウンターを使ったようだ。


「シーナのアンチカウンター使用」


 穹の宣言を采が派手な演出とともに相手に高らかに宣言する。


《シーナのアンチカウンター発動。自分の手番でなくても任意のタイミングで発動できる特殊効果。発動条件:一度の攻撃でライフが半分以上減っている、相手がカウンターorカウンタートラップを発動する、相手側のスキルに自己能力増加させるスキルが3つ以上セットされている、カウンターorカウンタートラップに攻撃力増加させる追加効果スキルがある。以上4項目すべて達成を確認。

 効果内容:次のターンまで敵の発動スキル1つにつき能力を5%上昇できる。今回発動されたスキルは3人で合計10》


【結構発動していましたね】

「ほとんどが今の合体攻撃につぎ込んだんだろうけどな。個人戦だと全然使えねえスキルだけどチーム戦だとエグイよなこれ。合計50%上昇か」


 そういうと割り振りを宣言せずに殴るスキルの使用をし、最後にターンがまわってくる近距離攻撃を得意とする相手に殴りかかる。すると支援型の一人が攻撃をかばってきた。これはカウンター効果だ、仲間が攻撃されると自動で発動される。そう、自動で、スキルが勝手に。


《スキル使用確認、ターン内の為シーナのアンチカウンタースキル効果有効。使用スキル数2》


 采のその言葉に相手は固まる。そうだ、「このターンのみ」と采が宣言していた。2ターン目が終わらない限り蟻地獄のようにどんどんシーナの効果が追加される。アンリーシュにおいて1ターン、とは行動順の一番目のユーザーが来たら、という意味ではない。本人にとっての1ターンなので、次に自分の番が来るまでが1ターンだ。この場合シーナが自分の手番になってから1ターンなので、この後シーナの番になってから次の順が回ってくるまでとなるので意味合いとしては2ターンもシーナは能力が上昇し続ける。


「今のもごちそうさん」


 言いながらスキルを一つ使用した。相手のスキルを一つ打ち消すもので、当然消すのは目の前の邪魔なかばうスキルだ。かばうを持っているのなら防御が高くたいしてダメージが通らないはずだ。加えてカウンターを絶対につけている。

 かばうが打ち消されて当初の予定通りの相手を殴る。殴るは最初から持っている単純でたいして強くもない攻撃だが、利点は防御関連のスキルを一切無視して攻撃できることだ。相手が防御を上げていようがもともと持っている防御数値に対して攻撃ができる。

 殴る攻撃がいくら強くないとしてもこのプレイヤーは防御とライフが低いのだ。かばうスキルがある仲間がいるの前提で用意した能力なのだから仕方ないが。さらに同時攻撃の対価として今このターンは防御ができない。防御は防御実行して初めて攻撃を軽減する。実行せず防御値だけで攻撃を受けるとダメージが大きい。

 穹が殴ると予想よりも大きなダメージが入った。クリティカルが出たのだ。


【見事に入りましたね】

「そう思ったから殴った」


 アンリーシュはユーザーに面白いと思わせて続けてもらうために初戦の設定が運営にコントロールされてるのはハッカーたちには有名な話だった。クリティカル、回避、そのほか確率で発動する系のスキルは全部有利になるように出てくる。ヒマな奴がいたらしく、初戦時から数十回戦った後でどのくらい確率が違うのか検証した奴がいた。そのデータによれば初戦の2ターン目において殴るスキルは他のスキルを1回使用までなら69%の確率でクリティカルが出るという結果だった。チーム戦では個人戦がカウントされない為穹は実質これが初戦となる。

 穹に殴られこのプレイヤーは一気にライフが減り、半分近く削られた。ただ殴られただけなのにとんでもない数値だ、先ほどの同時攻撃と同じような効果と言える。


 次はたった今殴られた相手のターンだ。しかし相手は動かない。当然だ、何もできないのだ。防御以外の行動はすべてスキルを使わざるを得ない。しかし使えばシーナのアンチカウンター効果で穹かシーナの能力が上がってしまう。その次はシーナのターンだ、確実にやられてしまう。いや、その前にあらかじめセットしておいた特殊効果が自動で発動されてしまった。

 2ターン目からは攻撃力増加。さらにこの増加に伴い、武器スキルが連動するようしておいた。合計3のスキルが使用されている。これ以上何か使おうものならどんどんシーナたちの能力が上がる。

 結局このプレイヤーは防御選択のみとなった。どうせこのターンのみだ、これをしのげば次のターンで確実に倒せると踏んだのだろう。シーナがどんな攻撃を他に持っているのかわからないにしても、先ほどの銃攻撃が大したことなかったのでこれは賭けになる。


「50%をシーナのライフル『貫通』に振る、シーナはそこの奴攻撃」


 貫通は能力値が高いほど防御力を無視した効果が上がる銃攻撃のみ与えられた特殊効果となる。シーナが今持っているライフルは通常攻撃こそ弱いが貫通を付加するとかなり強くなる。ただし貫通を使っても相手のスキル次第では防がれてしまうことが多いのであまり好んでは使われない。

 穹の指示でシーナが攻撃したのは先ほど穹が殴った今一番ライフが低い相手だ。勿論それをすれば先ほどのかばうスキルを持つ奴がかばうのはわかっている。スキルを使わせるためにわざとだ。

 穹の指示でシーナが攻撃をすればまたかばうスキルが発動され二人目のプレイヤーが攻撃を受ける。スキル使用2が表示された。かばうと、攻撃を受けた時に発動するカウンターだろう。他にもスキルはありそうだがすべて使用をやめたようだ。

 貫通5割増しとなった攻撃は相手の防御増加効果を半分無視しダメージがかなり通った。倒すとまではいかなかったが。


 これまでの戦いでも相手チームが本質としているのは防御を手堅くかためておいてかばうを使う事で仲間のライフを守り攻撃役が一気に叩く、基本というか誰でも思いつくというかありがちな作戦だ。それを逆手にとれるようこのランクに入ってから大急ぎで組んだスキルだった。一方的な展開になるスキルは運営が取り締まる傾向があるので、おそらくこのスキルは相手プレイヤーによって運営に報告され使用禁止となるだろう。今回限りとなるが別に惜しくはない。


 シーナの攻撃が終わり相手のターンとなる。こちらの能力値上昇という条件下ではあるが、シーナの攻撃ターンになったら恐ろしいというだけでまだ相手にも手はある。シーナのターンが来る前にシーナをつぶせばいいのだ。割り振りはチーム内で好きにできると言っても穹とシーナだけ、しかも穹は殴ると打ち消すとカウンター回復しかスキルがない。いくら殴る攻撃に割り振りを入れたとしてもかばうスキルのおかげでたいしてダメージにはならないはずだ。それならこのターンで確実にシーナを潰すしかない。


「……とか考えてんだろうな向こう」

【はい?】

「独り言」


 3ターン目。もう同時攻撃スキルは使えない、あれは一試合に一回だけだ。相手もその攻撃で倒せなかったことを考えていろいろ他の手はもっているだろう。それなら単体で効果が大きい攻撃スキルを使ってくるはずだ。


「シーナを倒すつもりでスキル使いまくってくるか、倒せなかった時の事考えてある程度のスキル数で抑えるか。お前どっちだと思う」

【不明です。演算するにはデータ数が少なすぎます】

「そうか?十分あっただろ。たぶん全力で潰しにくるぞ。こっちはそれを踏まえてシーナに回避35%上乗せ。回避は回避運動モード、シーナのターンがくるまで回避専念、防御はなし。回避行動のコントロールは俺がやる」


 穹の指示により穹の回避が上昇する。アンリーシュにおいて回避はいくつか種類があり自分で選べる。ほとんどの者が一定確率で回避が成功するという設定にしているが、一つだけ特殊なものがある。回避専念を選択すると目視で攻撃を自分で避けることができる回避運動モードというものだ。プレイヤーが参戦している場合のみ有効でパートナーは使用を禁止されている。人工知能にやらせたらほぼ100%回避に成功してしまうため制限されているためだ。これをパートナーにやらせる場合、使用コントロールは必ずプレイヤーがやるルールとなっている。

 当然これを使いこなすには本人の反射神経がものをいう。球技や対面型のスポーツをやっている人が有利になることもあり、好みがわかれる。スリルを求めてこの設定にする者もいるが、慣れていないと三半規管が混乱を起こし激しい酔いに襲われ体調が悪くなるので好みがだいぶ分かれる設定だ。この設定にしている時のみ、通常の回避よりかなりかなり有利な条件が与えられるので使いこなせれば弱くても戦況をひっくり返せることがある。

 穹はこの設定にしている。理由は単純に、自信があるからだ。反射神経を鍛えるのは何もスポーツだけではない。


【弾幕の嵐の戦闘機モデルシューティングゲームやっておいてよかったですね】

「あれ四方八方から弾くるしこっちも3次元で回避するからな。目が手足と後頭部にほしいと本気で思ったくらいだし旋回しすぎて酔って2回ゲロ吐いただけある」

【穹は嘔吐率が高いですよね】

「昨日のアレは俺のせいじゃない」


 呑気に会話をしているとまず一人目の攻撃がくる。スキルは4つ使用、持てる最大級の攻撃をシーナへとぶつける。しかし回避専念を宣言しているのでシーナの見ている画像が穹の意識とリンクした。

 ブーメランのような飛び道具が3つ同時に放たれて目前に迫る。ああ、あの攻撃こういう風に見えるのかと冷めた思いで見つめながら回避する。

 回避運動モードの回避はただ一度避ければ成功というわけではない。相手の攻撃力とこちらの回避値から運営独自の計算方法により攻撃モーション回数が決まる。それをすべて回避できれば成功だ。成功するかどうかは本人の反射神経次第なので本当の意味で実力により白黒着く。

 まるで熱源感知がついたミサイルのように避ける穹に軌道修正して再び飛んでくる。3つがすべて違う動きをするのですべてを見る必要がある……が。


 ―――この程度か―――


 穹が感じたのはそんな感想だった。結局すべて自分めがけて直行してくるので来る方向さえわかれば後は体をずらすだけだ。これで不規則な動きをしたり突然止まって再び動くなどトリッキーな動きをされたら翻弄されていただろうがすべて馬鹿正直に直進だ。こんなの欠伸が出るくらい退屈だった。

 相手の攻撃力とこちらの回避のバランスを計算した結果余裕で回避できる数値が出たのだろう。およそ20秒ほど飛び回る攻撃をかわし、相手の攻撃失敗判定が出る。


 ―――これで回避不可スキルとか割合攻撃とかあれば回避成功しても少なからずダメージ入ったのにな、知らないのかコイツら―――


 通常攻撃は回避が成功すれば100%攻撃を避けられることになる。回避運動モードの相手と戦った事がないのだろう。攻撃すべてをかわされたことに納得がいかなかったのか、采に何か訴えたようだが采は機械的に「ルール通りだ」と答えるだけだった。


【成功ですね。穹】

「おう」

【回避運動モードのマニュアルをチャットに載せたら相手が軽くパニックになったようです】


 ログを見れば「はあ?なにそれ!?」「知らねーよそんなの!」といった内容がいくつか書かれすぐにチャットを切られている。


「地味に精神抉るなお前」

【回避運動モードのルールを知らないようだったので載せただけです】

「まあ結果オーライ。慌ててるだろうなあっち」


 相手チームの二人目の番だがなかなか行動を起こさない。どうすればいいのか作戦を変えているのだろう。しかし一人の持ち時間というのは30秒と決まっている。やたら長引かせて迷惑行為となるのを防ぐためだ。残り4秒というところでようやく相手が行動を起こす。


「殴られ代行で攻撃が特になさそうだけど、どうするのかなコイツ」


 穹が面白そうに言えば実行されたのは残り一人への支援のみだった。自分のライフを半分なくす代わりに残りの一人の攻撃力を増加だけだ。今までさんざん攻撃を受けてきて、挙句自分のライフを半分も提供しているのでこのプレイヤーの残りライフは3分の1を切っている。ふと思いついたことがあったので穹はチャットを開く。


《お前持ってるスキルほとんどカウンター効果だけで自分から発動できるスキルねえんだろ?》


 返事はない。ないが、見てはいるはずだ。そして図星をさされて固まっているはず。


《それってつまり次俺が誰か攻撃すればお前のスキルが発動されてどんどん最後の一人が強化されるけど、俺が誰も攻撃しなければお前何もできないってことだよな。ライフ半分も使ってるけど、次シーナがお前狙ったらどうすんの?かばうスキルは誰か攻撃されたときだけ発動するんだぞ、お前自身に攻撃されたら発動しねーじゃん》


 だから防御を上げるスキルがあるのだが、次の攻撃はそんなもの関係ないと忘れているのだろう。たった30秒で仲間と相談して誰が何をするかなど決めることなどできるはずもない。一拍置いてから、最後にこう入力した。


《今のお前らのスキル発動分も使わせてもらうからな、貫通に。もつといいな?お前のライフ。貫通65%の攻撃って8割の確率で防御完全無視で攻撃通るからな、2割の可能性にでも祈ってろ》


 入力を終えると同時に穹はターンをパスした。自慢できることだが穹はコマンド入力の速さは異様に速い。チャット入力を終えてから行動入力をパスして自分のターン終了するまで1秒かかっていない。

 今の穹の煽り文を見て、あっと思った時にはすでに相手のターンが始まっている。始まってから持ち時間は30秒だ、たった30秒で向こうのチームが作戦会議をして次の行動を決められるだろうか。


 ―――無理だな、今頃かなりパニックだ。次でシーナを倒さないとシーナのターンが来るが有効な手段はすぐには思いつかない―――


 先ほどチャットに慌てて書き込みをしてしまうほどだ。普通は慌てても書き込みなどしない、自分たちに余裕がないと相手に知らせる必要などないからだ。実際の会話なら何を言うと相手の気に障るのかなど考えながら話すので本音など言わないことが多いが、気軽に書き込めて個人情報が守られやすいオンライン上の文字のやり取りというのは本当に思わず本音を書き込みしてしまう。それが誰に見られているなどと自覚もせずに。


【穹だって抉ってるじゃないですか】

「心理的揺さぶりだって立派な戦略だ。ましてこういう相手と会話も顔合わせることもないその場限りの試合しかやってない奴らには有効なんだよ」


 会話している間に再び30秒ぎりぎりといったところで残った最後の一人の攻撃が始まる。

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