第4話

二人が見張っている間、家から誰一人出てこなかったというのに。

本部に連絡を入れた後、二人は家を訪ねた。

中には老夫婦の夫の方だけがいた。

坂上が聞いた。

「失礼ですが、奥さんはどうしました」

「私は何も知りません。気がついたらいつの間にかいなくなっていました」

その顔その声に、人間らしいところはかけらもなかった。

その点においてはいなくなった妻の方と同じだった。

「私たちの知っている限りでは、この家からは誰も出ていないんですがね」

「そうなんですか。でも私は本当に何も知りません。気がついたら妻がいなくなっていた。それだけです。ほんと、わけがわかりませんが」

「ちょっと家を見せてもらえますかな」

「はい、いいですよ。どうぞ」

本来なら家宅捜索の令状が必要なのだが、坂上はそれを無視し、小山田もそれにならった。

たいして大きくない家。

押し入れなどはもちろんのこと、天井裏から床下まで徹底的に調べたが、そこには誰の姿もなかった。

「刑事さん、終わりましたか」

気持ち悪いほどの無表情、無感情で老男性が言った。

坂上は、感情がないと言うことがこれほどまでに不気味なものなんだと、あらためて感じた。

「終わりました」

「いろいろと失礼しました」

二人は家を出た。

坂上が言った。

「確かにいなかったな。あれだけ探したのに猫一匹すら」

「ええ、玄関も裏口もずっと見ていましたから、誰も家から出なかったはずなんですがね」

「まさに人一人が消えてしまったな」

「ええ、きれいに消えましたね。考えられないことですが」

「そして今度は夫の方が変になった。まるで伝染しているかのように」

「そうですね。で、どうします」

「そんなの決まっているだろう。あの家を見張るんだ」

「はい、わかりました」

二人は老夫婦の家を見張った。

わけのわからない事件だが、今のとことはそれ以外の方法がない。


その日はなにもなかった。

夜も。

そして夜が明けた。

あるとすれば今日だ。

二人は交代で休みを取りながら、それこそ目を皿のようにして家を見張っていた。

そして少しばかり暗くなり始めた時、老男子が家を出た。

「おい」

「はい」

見ていると老男性は、少し離れた隣の家へと向かっている。

最初、親子三人の一家が消えた隣の家が一人暮らしの老人の家。

その更に隣が老夫婦の家。

老人が向かっているのは、そのまた隣の家だ。

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