第3話
呼び鈴を押すと、老夫人が出てきた。
「なんでしょう」
坂上と小山田は警察手帳を見せた。
「この集落で、何人もの人が行方不明になってますね。それを調べているんですが」
「そうですか。ご苦労様です」
二人は嫌でも気づいた。
その顔そしてその声に。不気味なほどに感情と言うものがない。
まるでロボットと話をしているかのようだ。
この状況で刑事が二人訪ねてきたと言うのに。
「で、何か心当たりとかありますかね。どんな些細なことでもいいですから」
「いえ、私は何にも知りません。とにかく恐ろしいことですよね」
その声に、怖がっている様子など微塵もなかった。
坂上はこれ以上は無理だと判断した。
ここまで感情がない人間なら、たとえ嘘を言われてもベテランの坂上でも気づくことはないだろうと思ったからだ。
「そうですか。どうもお邪魔しました。でも、何かありましたらまた訪ねてきますから」
「はい、いつでも来てくださいね」
二人は家を後にした。
坂上が小山田に言った。
「おい、あれをどう思う」
「まるで人間とは思えなかったですね。心がないと言うか、なんというか」
「おれも同じだな。とにかくあれは尋常じゃない」
「そうですね」
「とにかくこの家を見張るぞ」
「はい」
二人で見張っていると、一人の老男性が家に向かっていた。
二人は老男性に声をかけた。
「あの家の住人ですね」
「はい、そうですが」
二人は警察手帳を見せ、坂上が言った。
「ずばり聞きますが、奥さんの様子はどうですか」
すると男性はぶるぶる震えながら言った。
「あれは妻じゃない。なんだかわからんが、間違いなく妻じゃないんだ。ひょっとしたら人間ではないのかも。とにかくものすごく変だ」
「そうですか」
その後少し話をしたが、話に進展も変化もなかった。
老男性は明らかにおびえながらも、自分の家に帰って行った。
「ものすごく怖がっていましたね」
そう言う小山田に坂上が答えた。
「あれだけ怖がっているのに、あの家から逃げ出そうとせずに帰って行くんだな」
「そうですね。でもどうしてでしょうか」
「おそらくだが、田舎の集落で生まれ育った人間はそんなもんなんだろう。この狭い世界がすべてで、外の世界はほとんど知らない。だからどこかに逃げると言う発想すら浮かばないんだろうな」
「そんなもんなんですかね。このままでは次に誰が消えるのか、ある程度は予測がつくと言うのに」
「だからそんなもんなんだろうな。子供の頃から何度も住む場所を変えた俺には、まるでわからんことだがな」
とにかく二人は、老夫婦の家を見張ることにした。
何かあればすぐにでも家に飛び込める準備をして。
そして夜も交代で休みながら見張ったが、外から見れば何の変化もなく朝を迎えた。
そして正午前、集落の長老が家を訪ねて初めてわかった。
老夫婦の妻の方が姿を消していたのだ。
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