第5話

父親と母親と小学生の娘の三人が住んでいる。

父親はまだ仕事から帰ってきておらず。娘もまだ学校から帰ってきていない。

母親一人のその家に、老人は呼び鈴も押さずに入って行った。

田舎の家。

信じられないことにこの状況下においても、玄関にカギをかけていない家が多いのだ。

「行くぞ」

「はい」

二人は家に向かった。

呼び鈴を押したが反応がない。

もう一度押してみたが、やはりなんの応答もない。

坂上が言った。

「警察だ。入るぞ」

入るとそこには三十代に見える女性がいた。

この家の主婦なのだろう。

入ってきた二人を見てはいるが、そこからは何の感情も読み取れない。

坂上が言った。

「ここに隣のご老人が来たでしょう。今どこにいますか」

女性が言った。

なんの抑揚も心もない声で。

「いや、そんな人は来てませんが」

「ちょっと探させてもらいますよ」

また令状もないまま、二人で探した。

しかし前回同様、天井裏から床下まで探したのに、誰もいなかった。

坂上が言った。

「本当に来ませんでしたか」

「はい、ずっと私一人でしたよ」

相変わらず感情が皆無な声だ。

その顔も。

坂上がどうしようかと思案していると、玄関の戸が開けられた。

入ってきたのは小学生の娘だ。

その手には何か袋を持っている。

「ただいま。お母さん、学校の帰りに買ってきたわ」

「おかえり」

その母親の声を聞いた少女は、驚き固まっていたが、やがて言った。

「おかあさん」

「なあに」

「本当に、お母さんなの」

「なに言っているのよ。お母さんに決まっているでしょう」

そして沈黙。

母親は娘を見て、娘はそばにいる知らないはずの刑事二人に目もくれずに母親を見ていた。

刑事たちが見ているなか、その状態がしばらく続いたが、やがて娘が言った。

「お母さんじゃないわ。いったい何なの。このお化け!」

娘は袋から何かを取り出した。

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