第20話<団長一日目>4
「何でも良いねんって!じゃあ次はハカセの番や!」
「何だか罰ゲームみたいな状況ですね」
苦笑いを浮かべ、仕方なさそうに川原に立つハカセ。
「では‥‥ヤッホー!です」
辛うじて大きな声を出せたハカセだが、振り返りもせず通り過ぎる通行人を見た健太は「では、もです!も要らんやろ!」と完全に団長を気取っている。
「次はチビの番やな!」
健太の言うとおりにチビは川原に立つが、自分の番になると下を向き声を出せないでいた。
「喋れないのではさすがに無理じゃないですか‥‥」
ハカセが助け舟を渡そうとするが「イヤ!気合いが有れば何でも出来る!」と健太は全く聞き入れようとしない。
意見の違う二人に挟まれたチビは緊張感からか下を向いまま手を震わせている。
それでもチビは上を向いて、何度か声を出そうとするが出せずにいると「新しく増えた団員ってソイツの事け?」と明らかに馬鹿にした洋介の笑い声が背後に響く。
「おー!来てくれたん!」
振り返り嬉しそうに迎え入れる健太とは裏腹に、ハカセとチビは無言のまま動こうともしない。
「こんなもん簡単やろ~!代わりにやったろけ!」
何時から見ていたのか、洋介はチビを押しのけて同じように川原に立つ。
「かかって来いや~!」
健太に負けじ劣らずと大声で叫ぶ洋介に「そうコレやコレ~!」と瞳を輝かす健太。
「お前こんなんも出来んで応援になるんけ?」
チビに対して容赦無い言葉を浴びせる洋介を遮るように「気にする事有りませんよ」とチビの肩を叩くハカセ。
「じゃあチビ、もう一回やってみようか!」
健太は軽いノリで言うが、チビは頷くでもなく俯いたままでいる。
「コイツほんまに団員なんけ?」
遠慮を知らない洋介の問いに「今日はもういいでしょう!」とハカセが睨みを効かす。
「まぁええわ、もう帰るけ」
ハカセの一言に洋介は、不満げな表情を浮かべたまま早々に立ち去る。
「え~!?まだ練習始まったばっかりやん!」
残念そうに健太は情けない声をあげるが「僕達も帰りますよ」とハカセはチビの背を押す。
「え~!?マジで~!?」
明日の約束もせず二人も走り去り、すがるように叫ぶ健太の声が虚しく基地に響いた。
翌日の基地では「やはり来ませんね‥‥」といつものように二人だけの状況を当然のように呟くハカセ。
「何で来んのや~!休み時間は呼びに行ってもおらんし~!」
今日の為に用意してきたメガホンで、悔しそうにソファーを叩く健太。
「練習方法がアレでは仕方ないと思いますよ」
「応援する練習って言えば声だしやろ~!?」
健太は不満そうに、メガホンで地面に×を描く。
「応援する方法も、練習する方法も人それぞれだと思いますよ」
自分の武器はコレだとアピールするように、ノートとペンを見せるハカセ。
「そっかぁ!じゃあ役割を考えたら良いんや!」
健太は褒めるつもりでハカセの肩を揺らしているようだが、ハカセは落ちそうになる眼鏡を冷静に押さえている。
「ヨッシャ~!じゃあチビはどんな役にしようかな~!」
元気を取り戻した健太が、放り投げそうな勢いでメガホンを振り回していると「それでこそ団長ですよ」と笑顔でズレてしまった眼鏡を掛け直すハカセ。
「そりゃそうやろ!今日は団長二日目やからな!」
健太の驚く程プラス思考な一言に、ハカセは呆れ顔で吹き出した。
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