第19話<団長一日目>3

「そんなもん応援団員って言わんのちゃうけ!」


大きな声で笑う洋介にクラスメートの視線が集まる。


「でも、良い奴やねんで!」


負けじと声を張る健太に驚いてか、教室は静まり帰っていた。


「ソイツが気合い入ってるか見に行ったろけ?」


予想外な洋介の提案に目を見開く健太。


「マジで!じゃあ今日基地で待ってるわ!」


今にも飛び上がりそうな勢いで健太は駆け出し、教室を後にした。


「グッドニュースや~!」


健太の大声に、掲示板の見える位置で張り込んでいたハカセが驚き振り返る。


「何なんですか、急にびっくりするじゃないですか」


冷静を装い眼鏡の位置ズレを直すハカセ。


「洋介が基地に来るって言ったんや!」


矢継ぎ早に話しを続ける健太に「今日ですか?」と驚きを隠せないハカセ。


「そう!四人目決定や!」


まるで手柄を取ったように自慢げな健太だが「良かったじゃないですか、僕はオススメしないですけど」とハカセは他人事のように話しを終わらせ去って行った。


授業を終えた二人は、いつものように基地に集まっていた。


「遅いな~!やっぱり呼びに行った方が良かったかな~」


待ちきれずに健太は準備運動を始めている。


「どの休み時間も教室には居なかったですから仕方ないですよ」


練習する気も無さそうに、ソファーでくつろぐハカセ。


「それにしても今日は気合いが入っていますね」


念入りに準備運動を続ける健太にハカセが聞くと「今日は団長一日目やからな!」と健太は笑顔を反した。


「お~っと!?何時から居たんや!?」


突然驚き声を上げる健太。

健太が身体をよじった方向にはチビが無言で立っていた。


「じゃあ練習開始や!」


両手を上げて二人を呼び寄せる健太。


「練習って方法は考えてあるのですか?」


仕方なさそうにハカセはソファーから立ち上がる。


「もちろん完璧やで!じゃあ並んで」


手を叩き二人を急かす健太。


「並んでからどうするのですか?」


ため息混じりのハカセと、笑顔のチビが立ち並ぶ。


「演歌歌手って遠くの蝋燭の火を、吹く息で消す練習が有るらしいんや!」


大袈裟なジェスチャーで健太は説明するが「ココには蝋燭なんて有りませんけど‥‥」とハカセはわざとらしく辺りを見渡す。


「だから!代わりに橋の向こうの人を呼び寄せる練習するんや!」


健太は楽しげに橋の向こうを指差すが、チビは自信無さそうに表情を曇らせている。


「それでは団長、手本をお願いします」

「二人共、まあ見とけ!」


待ってましたと言わんばかりに健太は大きく息を吸い込み「ヤッホー!!」と大声で叫び。

対岸で何事かと振り返る通行人に、健太は自慢げに手を振った。


「応援なのにヤッホーですか?‥‥」


ほとほと呆れ顔のハカセ。

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