第15話<バット1本で解る事>3

「またか‥‥無視や無視!」


小声で冷たくあしらう健太にハカセは「そう言えばあの時、掲示板に居たのは光久君だったような‥‥」と見比べるが、聞き入れようとしない健太は「じゃあ、校門の入り口下に団旗置いたらどうやろ?」と何事も無かったかのように会話を続けている。


「確かに全員見てはくれると思いますけど、踏まれますよ」


健太に合わせて、光久から視線を逸らすハカセ。


「それは絶対アカン!団旗は守るべき誇りやからな!」


宣言のような健太の大きな声が辺りに響き、思わず笑うハカセ。

ただ見ているだけの光久は二人が笑い合う会話に入れなくても、嬉しそうに笑顔のままでいた。


「守るべき誇りやって~!!」


明らかに健太を馬鹿にした言葉と笑い声が堤防の上から聞こえてくる。

何事かと三人が見上げると「コイツ達や!俺達の自転車にイタズラしやがって」と駄菓子屋で揉めかけた二人含むブラスバンド部員五人が、自転車を停めて駆け降りて来た。


「自転車って何の話しかな?」


臆する事無く、しらばっくれる健太に「ふざけんな!絶対お前達や!」と五人は少しも聞き入れようとせず、健太とハカセの自転車を蹴り飛ばす。


「おいっ!何しとんねん!」


今にも殴りかかりそうな健太。


「二人の自転車にイタズラしたのは僕達ではないですよ」


ハカセが間に入り仲裁しようとするが「嘘つくなバレバレやぞ!」と更に自転車を踏み付ける。


「本当ですよ!イタズラしたのは、もう一人の方で僕達ではないです」


正直にハカセは説明するが「お前達の仲間なんは、どっちにしろ一緒やろ!」と一人が自転車を蹴り、それを止めようとした健太が相手に掴み掛かられる。


「オイ、離せや!」


叫ぶ健太に「ん~、何を離せって~」とニヤつきながらブラバン部員は、三人掛かりで健太を囲む。

残る部員二人はハカセの前に立ち、おどおどと無言で下を向いたままの光久は相手にもされていない。

睨み合う健太だが、流石に三人相手では手出し出来ずにいると「そう言えば、さっき旗が大事とか言ってたよな~」と相手の一人が白々しく思い出したようにほざく。


「そうや!団旗は守るべき誇りや!」


雰囲気を察したのか、健太は立てかけた団旗の前に立ちはだかる。


「俺達の大事な自転車が汚されたから、コイツ達の大事な旗を汚さなアカンな!」


相手は民主主義のまね事のように、仲間に同意を求め。


「オウ!そうやそうや!」


徒党を組んだ五人が声を揃えて叫ぶが、逃げようとはしない健太。


「悪ふざけも、いい加減にして下さい!」


ハカセは声を強めるが、止めようとしない五人と健太は揉み合いになっている。


「止めて下さい!」


ハカセの制止も虚しく、その場に倒される健太。


「大丈夫ですか!」


健太を助けに行こうとしたハカセは、相手二人に抑え込まれ。

たまたま居合わせた光久は、どうする事も出来ず立ち尽くしていた。

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