第14話<バット1本で解る事>2

「実際の試合に出ないと解らないのでは?」


健太がバットを振り始めるのを予想してか、さりげなく距離を空けるハカセ。

健太は少し考えた後「‥‥そうや!試合を再現したら良いんや」と肩慣らしのようにバットを振り始める。


「バットだけで再現って‥‥」


小声で呟くハカセに健太は「バット1本でも解る事が有るはずやって!」と強引に話しを進めるがハカセは「無いですよ間違いなく」と冷たくあしらう。

ハカセの反論を気にもしていないのか健太は「じゃあバッターやるからピッチャーやって!」とハカセの立ち位置を指差し指示した。


「本気で言ってるのですか?」


半信半疑のハカセに「マジで!早く~!」と健太は地面をバットで叩き急かす。


「では投げますよ!」


渋々とハカセが、無い球の投げる真似をしようとすると「アカンって、そんな感じやったら緊張感が無いやん!」と不満そうに再び地面を叩く健太。


「構えたら俺がナレーションするから頼むで!」


まるでプロ野球選手のように、構えた状態でバットを回す健太。


「ハイ、ハイ‥‥」


面倒臭さそうに返事を二度反すハカセ。

ハカセが構えると「最終回カウント、ツーストライク、スリーボール!ピッチャー振りかぶりました!」と健太の熱いナレーションに合わせて振りかぶるハカセ。


「さあバッター1点差を反して逆転勝利する事が出来るのでしょうか!団長健太の必死で応援する声がスタジアムに響いています!」


まだですかと言わんばかりに、ハカセは小さなため息をついている。


「さあピッチャー投げた~!」


健太の言うとおりにハカセがやっと振り下ろすと、バットを振った健太が「バッター打ちました~!ホームラン!奇跡の逆転勝利です~!」と上機嫌でバットを放り投げ、ハカセの周りを一周した。


「正に奇跡ですね‥‥」


今にも再びため息をつきそうなハカセに健太は「そうやろ!」と拳を振り上げたままの体勢で気付いてもいない。


「そういう意味ではなくですね、データではガンバルズはホームラン1本も出ていないですよ」


すかさずノートを見せるハカセ。


「そんなんどうなるか解らんやろ!?」


健太は反論するが、ハカセの確率論が今まで外れた事は無かった。


「そんな事よりも、きちんと募集する方法を考えた方が良いのでは?」


もっともなハカセの意見に健太は諦めたように「解ってますがな‥‥」とソファーに座り込んだ。

数分間の沈黙の後、考え込んでいた健太が「やっぱり普通じゃない事をやらなアカンよな~」と一人頷き始める。


「確かにそうですね」


珍しく健太の考えに納得するハカセ。


「そうや!団員募集って部分をバンって、飛び出す絵本みたいにしたらどうやろ?」


大胆な手振りで説明する健太を見てハカセは「通行の邪魔になるので剥がされると思いますよ」と笑いながら答える。

二人がそんな話しで盛り上がっている中、背後に人の気配を感じた健太が振り返ると、途中から会話を聞いていたのか光久が笑顔で立っていた。

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