第5話 勇者拝命の聖儀
「勇者拝命の聖儀とは、我らが主神、月の神クラナドに勇者として魔を屠り秩序を敷く使命を戴くための儀式です」
厳かに告げる。よほど大切な儀式なのだろう。王族が端に避けられるほどに。
ヴィスタリアは、階段を指さして一つ一つ説明した。
「この建物は勇者召喚の間であり、月の神の加護が最も強い【月光の聖域】でもあります。この舞台は【拝命の壇】というもの。ここで神託を受けて、初めて勇者と認められるのです」
「え、それじゃまだこのスキルとかは……」
「いえ、勇者としての能力は既に皆様の物です。しかし、神に認められて初めて勇者として活動ができるのです。……ご安心ください、今まで認められなかった方はいません。一応不適合になる場合があるそうですが、前例はありません」
その言葉に安堵する三十六名。
戦慄する篤哉。
(そうか、やっぱりこれが追放フラグか。さあ、どうする。不適合なのは確定だ。そのことが今の時点で分かるのはありがたい。どうする、どうすべきだ)
ヴィスタリアの説明も終わり、儀式の準備も整った。
拝命の順番は特に決められていないようなので、学生の性質から出席番号順に登ることになった。
一番手は、
舞台に上がり、篤哉からは見えない位置まで進んだ。
十秒ほどの静寂。
突如、舞台の奥から光が溢れた。
淡い、清らかな、黒天の唯一光たる月の光。
やがて光が潮のように引いていき、青山が階段を下りてきた。夢遊病者のような覚束ない足取りだ。
口元に笑みが浮かんでいるから、悪い結果ではないのだろう。
二番手、
三番手、
二人も緊張していたが、特に問題はなく神託を授かり階段を下りてきた。
四番手は伊勢崎幾真。
五番手は凍雲斌。
二人もつつがなく儀式を終え、皆を笑顔で励ましたことで不安は払拭された。
(挙動不審な奴はいない……不適合は俺だけか。こりゃまずいな)
追放されるだけなら問題はない。
だが、予想以上に神聖な儀式のようだ、もしこの場で不適合者が出たら処刑の可能性もあり得る。
周囲を見る。
見るべきものを見て、読み取るべきものを読み取り、考える。
剣の試合と同じことだ。
いつの間にか、儀式は目前に迫っていた。
二十八番、
枕木の次は馬庭篤哉。
二十八回目の光が溢れる時、篤哉の心は固まっていた。
「おい、次はあの馬庭だぜ」
「うわ、クズ馬じゃん、あいつが勇者?バカじゃん」
「ほんとそれ。あいつがシズカに何したか知ってるでしょ?」
「うん。ほんとに最低だよ。あんなのが勇者なんてありえないよ。ねえ、斌もそうおもうでしょ?」
「え、え?う~ん、そんなに悪い人なのかな?わかんないや」
「斌は優しすぎるんだって。あんたが折角遊びに誘ってやっても取り合わないし、かばう必要もないじゃん」
「う~ん、それは別に気にすることでもないような」
篤哉の耳には、既に有象無象の声は聞こえない。いや、悪口を言われているのはわかるが気にしない。
聖なる舞台へと続く階段を前に、一つ大きな息をついて心臓に手を当てる。
その手をゆっくりと放して、現れた光の板を、その場にいる全員に見えるよう反転させた。
勇者の横に、「不適合」の三文字。
「察しの通り、俺は勇者にはなれないみたいだ。くくく、楽しい魔王討伐はお前らだけでやってくれ。俺は留守番でもさせてもらおうかな」
挑発的に唇を歪めて、孤独な状況を愉しむように言い放った。
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補足
篤哉くんは、敬語もどきと荒い口調のどちらも用います。気分で言葉遣いは変わりますが、不遜なことには違いありません。
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