第4話 二人の人気者と黒星

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個体名:馬庭篤哉

種族:人間

クラス:勇者(不適合)

順応武器:刀

アタックスキル:【馬庭念流★】:「続飯付けそくいづけ」「無構むかまえ」「獅子のはしり」「棄鉢すてばち」「屏風倒し」

      【勇者の業☆】:「亡魔の神技」「須絶の衝撃波☆」「退魔の瞳」

マジックスキル:なし

パッシブスキル:【勇者の加護☆】:「対悪魔能力上昇」「王界の穿」

      【剣客の加護】:「斬撃能力上昇」「装備品耐久性上昇(刀)」「果ての力☆」


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「ほー」


馬庭念流は、篤哉が修める剣術である。

篤哉の実家は上州馬庭。馬庭念流の本家本元・樋口篤尽定恒ひぐちとくじんさだつねの高弟である馬庭善信よしのぶは篤哉の大叔父だ。幼少時には道場の師範を務める善信に散々鍛え上げられ、神奈川に引っ越してからも善信の伝手で現地の道場に通うことができた。

覇気がなく陰気なので軽く見られがちだが、腕の方は確かなものでいくつか免許も与えられている。

篤哉自身も自分の腕に自信は持っていたが、まさか異世界でスキル認定されるとは思ってもみなかった。


(まあそれは別にいいんだけど)


それよりも気になるのが、スキルの横にある星と、勇者の横にある「不適合」という不吉な三文字だ。特に後者、明らかな追放フラグである。


(しかし、不適合ってなんだよ。社会生活不適合みたいに言われてもな……確かに勇者に適合する性格じゃないが)


それならこいつらも勇者じゃないだろ、と思う。というより現代日本に勇者なんているわけがない。露出狂や痴漢などの「ある意味勇者」ならいるが。


その勇者候補たちはというと、スキルの文字面の格好良さに震えたり、友達と内容の解釈を相談しあったり、そもそもこういったゲーム的なシステムに疎くあたふたしていたり。


「確認していただけたでしょうか。皆様には勇者召喚の時点で勇者の特有スキル【勇者の業】【勇者の加護】が与えられているはずです。その他、自身の特技や性質によりいくつか与えられているかと思います」


「え……俺魔法使えねえんだけど。おいマモル、これってやばくないか?」

「いや……僕も魔法限定だから……多分大丈夫………」

「おいショウタ。お前ボクシングやってたよな、やっぱり」

「ああ、【破壊の拳】だと。加護っつったが、拳の力が上がってるのがわかるぜ」

「ええ~アタシが【魔法剣】~ヤダ、刃物振り回すなんてヘンタイじゃん。ウケる~」

「ぷくく、お前が【白魔法】だと⁉やべえ、おもしれギャアアア」

「うるさい死ね」


(そうか、魔法が使えないのは俺だけじゃないらしい。そこは問題ないのか)


こうやって盛り上がっている間に、部屋の人口も大分増えた。右の席にはどの段の席もほぼ埋まっており、ネイビス王は説明の間に最上段の玉座に移動していた。

二段目の三席には、やはり王族と思しき男女が座っている。男二人と女が一人、若いので王子と姫だろう。


(王妃らしい人はいないな……)


それから、その下段には恐らく有力貴族の列、もう一段下が大臣など閣僚と思われる。


閣僚の列の中で、一人の男と目が合った。

鷹のような鋭い目、整えられた顎鬚、遠目でもわかる眉間の深い皺。

篤哉の視線に気が付くと射すくめるような視線を返した。

その視線には、牽制とともに品定めをするような奇妙なものを感じた。


「【勇者の業】と【勇者の加護】の横に☆の印があると思いますが、それは稀少スキルの証です。人によっては、他にも稀少スキルをお持ちの方がいらっしゃるかもしれません」


「おお、本当だ」

「やった、俺四つすべて稀少じゃんひゃっはあああ」

「うわ先生落ち着いてください!」


「あの……いいでしょうか」


暴れだした鍋島先生を尻目に一人の女子生徒が手を上げる。


「私のスキルの横星が黒星なんですけど、これは何か意味があるのですか?」


控えめながらはっきりと、よく通る声。この状況下で比較的冷静さを保てる精神力と、その明るい笑顔。


クラスのアイドル・凍雲斌いてぐもさやか


彼女の発言に、部屋はざわめいた。


「何、黒星だと」

「ということはつまり……」

「今回はアタリ、のようですな」


「え、えっと……」

「ご心配の必要はありませんよ。黒星は、「固有スキル」の証です。その個体にしか発現しないスキルで、とても強力なスキルであることが多いです」

「そうなんですね。よかったです」


ヴィスタリアの説明に、安堵した声を出す。

その声に、夏の薫風のように爽やかな声がかぶさる。


「黒星なら、僕のスキルにもあるみたいだね。これも固有スキルなのかな?」


ニカリ、と白く均一な歯を見せて笑うイケメン・伊勢崎幾真いせざきいくま

いつもなら彼の発言に声を上げるのは女子生徒のはずだが、今回はそれをかき消すような驚愕の波が場を支配した。


「く、黒星が二人だと……こんなことがあるのか」

「前代未聞だぞ。これは、我が国が魔王を倒す端緒になるやもしれん……」

「月の神に感謝を……」


黒星スキルが発現する可能性は相当に低いようだ。

周囲の生徒も二人の周りに集って声をかけている。鍋島は、自分に黒星がないことでへそを曲げている。


(この様子だと他に黒星はいないのか。クラスの人気者二人と、嫌われ者の俺が黒星同士とは皮肉が効いてるな)


ヴィスタリアが次の説明を始める。


「以上が召喚の経緯とスキルの説明です。次に、勇者拝命の聖儀の説明に入らせていただきます」

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