第3話 俺とあいつ
「俺さ、同じ大学へいくから。
ね、俺が行くまで絶対に浮気しないで。ね?」
約束だよ、と唇が重なる。
晩秋の深夜。
予備校の帰り道、
「一人で帰れるのに・・・」
そういう俺の言うことなんかまるで聞かない。
「ダメダメ。
先輩は自分がどんなに可愛いのかまるでわかってないからさ」
可愛いって、あのな。
もうすぐ18になる
そう言ってもホワンと笑うだけ。
どんなに寒い日でも必ず自転車で予備校の前まで迎えに来るあいつの氷のように唇は冷たくて。
「神田さんのあったかいの、もっとちょうだい」
「もっと・・・・・・」
「そう、もっと深くちょうだい・・・」
ねだられて拒否できない俺。
唇が同じ温度になるまで、離してくれない。
息があがって思わずあいつの胸を押し返しながら、お前も勉強しろといっても柔らかく笑うだけ。
「先輩との時間を大切にしたいんだ。だから勉強は効率重視」
恋する男は最強なんだよ、と抱きしめられる。
でも俺があいつに惹かれはじめていたのも本当だった。
高3の二学期は部活も生徒会会長も引退して学校に行くことも減る。
受験体勢に入ると二人で会えるのは予備校の帰り道だけだった。
俺は次第にあいつとの夜のデートを待ちわびるようになっていった。
2月に入り、俺は高校を卒業した。
大学受験はいよいよ本格的になる。
「先輩 卒業おめでと。
今夜うちでお祝いさせて」
あいつは開業医の一人息子で、
両親は医者。二人とも学会で渡米中らしい。
「来週まで一人暮らしだよ」
と笑う。
卒業式の夜、
俺はあいつの部屋で初めて抱かれた。
18年の人生で感じたこともないほど高揚し昂り、こいつこそが俺の人生だと幸福で満たされたのは真実。
自分の中にこんなに熱いものが生きていたことに驚き、
怖いくらい幸せで颯真が愛しかった。
「俺、嬉しくて泣きそう。離さないよ、
神田さん愛してる、愛してる」
「・・・俺も、お前が...好きだ」
2月が終わる頃、俺は志望の医大に合格した。
仙台を離れ東京へゆく。
一年前は単に実家に近くなるくらいにしか思っていなかった大学進学だったのに。
今は仙台を離れるのがこんなに寂しい。
桜の咲く4月。
慣れない一人暮らしがはじまった。
あいつのいない学校生活なら、
俺には勉強以外やることがなかった。
学校生活は忙しさに飛ぶように過ぎてゆき、
離れ離れの毎日はあいつが恋しくて眠れない。
毎夜、愛の言葉は溢れんばかりにくれるのに俺もわがままになったものだな。
「俺、寂しくて泣きそう。早く会いに行きたいよ」
「会いにって、遠いぞ」
「俺、バイクの免許取ったんだ。
ちゃんと学校には報告したよ。
こうゆう時 成績とか生徒会とか使えるよね」
あいつは2年生で生徒会会長に抜擢されていた。
超異例だったけれど、何でも自分の思い通りを叶えてしまう男だ。
週末になるとバイクを駆って一人住まいの俺のアパートに会いに来る。
限られた時間を惜しむように抱き合う俺たち。
離れていてもあいつに満たされていっぱいだった。
それから2年後、颯真は約束通り俺と同じ医大に、俺の傍にやってきた。
俺の身長を少しだけ追い越して。
幼さが抜け逞しく、精悍で頼もしい男として。
恋人として。
「これからはずっと一緒だ。
もう祐希の傍から離れない。ずっと一緒だ」
あいつと離れていた2年間は勉強と実習で遊ぶ暇なんかない医学部の学生。
不器用な俺は食事も適当で、会うたびにやつれていた、らしい。
そんな俺にあいつは会う度に眉を顰めていた。
大学入学後、どこに住むのか教えてくれなかった颯真だが、
それは入学式前日に突如明白になる。
俺の2DKの部屋にルームシェアという大義名分を引っさげてあっという間に引越ししてきた。
要領のいい颯真は高校でも超有名人。
サッカー部の主将、卒業まで一教科も落とすことなく学年トップをキープした。
当然先生からの信任は厚く、文武両道とモテ男の陽キャを大いに活かし。
同居の許可をとるにも俺の親ウケもかなりよろしく。
同居という名の事実同棲。
「新婚さんみたいでしょ。俺、頑張ったよ。祐希、ご褒美ちょうだい」
うっとりと俺を見つめる颯真。
本当に可愛いやつ。
あいつと送る大学生活は毎日が刺激的で、そして甘く蕩けるようだった。
同じ場所で、同じ時間を一緒に息をするようにして過ごした。
「ねぇ祐希、卒業後は遠くの病院にはいかないで」
せっかく一緒に暮らしてるんだもん、と甘えるあいつ。
そして甘やかしてしまう俺。
共に研修医から俺は内科医に、
颯真は麻酔科医として社会に出た。
医者になってからも俺は、東京の病院で実績や勉強を重ねるからと
実家には跡を継ぐ兄と大学生の弟がいることを言い訳にして横浜には帰らなかった。
両親が現役の医者のあいつも同じ。
「ずっと一緒だよ、祐希」
「そうだな、ずっと一緒に歩いていこう」
「夢。二人の夢、叶えようね」
「いつか二人で開院しよう。ずっとお前といたい」
「うん、祐希と一緒にいるよ」
「俺、外科専になれるよう勉強する」
「俺も。地域医療を勉強するよ」
俺たちは医者として共通の夢を持った。
ただ、ひたすらに ─── 幸せで。
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