初夢

 7時。二人暮らしの小さいアパートに今年二回目の朝が訪れた。

「おはよう」

 眠い目をこすりながら男はリビングに入ると同時に、同居人に声をかけた。食卓に座っていたカレは読んでいた本から目線をあげる。食卓の奥にあるベランダからは綺麗な朝日が見えそうだったが、つま先から“キン”と寒さを与えられ、外に出る気力は全くなかった。

「おはよう、ねむそうだねぇ」

「うーん……。結構寝たんだが、なんか夢を見てなぁ」

 カレの向い側に座ると、男の口からあくびがこぼれた。

「富士とか鷹とかなすびとか?」

 カレは本を閉じ男の見た夢を尋ねる。

「忘れた」

「そっか……。でも、悪い夢ではなかったと思うよ」

 カレのその言葉に疑問を覚えず、「じゃあいっか」と男は立ち上がる。

「朝飯つくるよ。君も食べるか?」

「いや、ぼくはお腹いっぱいだな」

 獏はにっこりと笑っていった。

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