可哀そうな姿

「マ、ママ!! な、なんで、こんなところにいるの!?」


私は、再会を喜びすぎた。喜びすぎて、今、自分がどこにいて、何をされているのかを忘れていた。


そして、そこにリクがことも。


リクが覆いかぶさっていて、前が見えなかった。だけれど一瞬、その端から部屋の中が見えた時に、私はハッとした。


っ!! あいつが、あいつが……静かにリクの後ろから忍び寄るように歩いてきている。あの時みたいに……右手に金属バットを持ちながら。


リ、リク! リク!!! 私なんか放っておいて、は、早く逃げないとっ! あいつが、あいつがっ……!


「もしかして、ち、父にされた、」

「あ、あぁあ!!!」

「!?!?!?」


私は、喉を犠牲にして叫んだ。喉に痛みが走った。リクは後ろを振り向こうとした。でも、私の叫びも虚しく、リクは、私の目の前で、あいつに金属バットで頭を思いっきり殴られた。


それは一瞬のこと過ぎて、私は目を閉じることが出来なかった。だから、その光景が目に焼き付いてしまった。


「あぐ……っ!!!」

「……あ、ああぁ!! あっ……」


怒りが湧いて、次に悲しみが湧いた。


「マ、ママ……」

「あ、あぁ……っ」


私の目の前に、生まれたばかりの赤ん坊のように横になっているリクがいる……。少ししか動かない手足を必死に動かしている。とても……可哀そうな姿になっている。


「マ……マ……」

「あああ、ぁ、あ……」


リクが……私を呼んでいる。それなのに、私は……何もできない。それがはらわたが煮え返りそうなくらい、腹立たしくて、腹立たしくて……そして同時に悲しくて。


「あぁ~リクぅ、痛いー? 悪い子だね~勝手に僕の部屋に入るなんて~。禁止してたのにね~? 自業自得だよ? リク」


あいつが喋る、その言葉すべてが憎らしい。でも、私は何も出来ない。


「リクがね、抜こうとした本のタイトル教えてあげよっか」

「……?」

「『監禁の仕方』だよ」

「……!……?」

「 リク、つーかまえた♡」


誰の目にもつくような赤い本。それは、私も興味を持ったことのある本。でも、その時は、また教えるねって言われて、本棚から抜き出さずにはぐらかされた本。


あの時から、既に私を監禁しようと、企んでいたなんて。


「……っ」

「あ、ぁ、あ……」


リクが完全に意識を失ってしまったのが分かった。


「あぁ~気を失っちゃった。ごめんね、リク。でもさ、勝手に入って、ここ開けちゃったんだからさ。ね? アヤ? 仕方がなかったんだよ」


リクにまで、こんなことをして。


「……っ」


私は憎悪を含んだ目で鋭く睨みつけた。


「……何だよ、その目はぁ?」


そんなことをしても、何の意味もないことは分かっていたけれど。こいつには、何も効かないことは分かっていたけれど。


「アーヤー、分かるだろー? バレたからこうするしかなかったんだよー。最近、リクはスクスク大きくなってて、力も強くなってて、僕もあの頃より年をとったから、!!」

「……んっ」


それはお前だろ。


「なんだよ、何か言いたいなら、言えばぁ?」

「……」


あ、ついやっちゃった。また、殴られる。


「あ、でも言えないよねー! アヤの声はもう出ないもんねー! あぁ、あんなに可愛かった声がもう出ないなんて……可哀そうに。あぁー、アヤの声、聞きたいなぁ」


たとえ、また声が出るようになっても、お前となんか、金輪際話さない。


「あ、でも、叫ばれたら面倒だし、いいや、別に。アヤの声、他の人に聞かれたくないし。リクにも」


こいつのヤンデレは急に開花した。どうして、私、もっと早く気づかなかったのだろう。今思えば、どの行動もそうだったのに。


「もちろんリクもアヤの隣に並ばせてあげるよ!」


え……え、リクが、私と同じよ、うに……? なんで……なんでよ。こんなことされるのは、私一人だけで十分じゃない。 なんで……! なん、で……リクにまで、そんなひどいこと、されなきゃいけないの。私のことが憎いなら、私だけに、こんなことをしたらいいじゃないの! リクは、何もリクは関係ないのに……。ただ、この部屋に入ってしまっただけなのに……。


「正直こんな早くバレるとは思ってなかったけど、いつかはバレるかもって思ってたし。準備は万端なんだ!!」


じゅ、準備万端……? 最初からそのつもり、だったってこと……?


「しっかし、勝手に僕の部屋に入ったことは許せないな。何かお仕置きしなきゃ」

「んん、ぁ、、や」


なんでよ、リクのことは放っておいたらいいじゃないの。今まで通り、そうやって、いいじゃないのっ!! 私はこの部屋から抜け出せなくて、リクのために何もできなかったし、できないのだから。母乳でさえも、あげられなかったのだから!


「悪い子はしつけなきゃ。でしょ? アヤ。それに外された布も付け直さなきゃ」

「ん、あ……」


やめてよ。せっかくあの子が解いてくれたのに。そんな汚れた手で触らないでよ。


「もっときつく、ね? 大丈夫。アヤは喋れなくても、可愛いよ……」


どうして、私の、リクの人生は、こうなってしまったの。

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