再会
その人がなにやら、ブツブツと言っているのが聞こえたけれど、内容までは距離が遠すぎて聞き取れなかった。
痛い首を動かして、私はその姿を見ようとした。
「う、うわあああっっっっ!?!?!?!?」
「っ!!」
ま、待って! い、行かないで……っ!
声が出ない分、私は必死にジャラジャラジャラと鎖を鳴らして、自分の存在と、生きていることを必死に示そうとした。
「……ん、んんっ!」
私に、気付いて!!! 助けて!!
私は鎖を鳴らすことを止めなかった。力を振り絞って、もうあまり動かない体を酷使した。
こちらに向かってくる気配がした。
良かった……でも、お願い! 悪い人じゃありませんように!!
見続けようとしたが、体を酷使した私はすぐに疲れてしまい、首を落としてしまった。
「お、お前は、誰だ!! なんでここにいる!」
その声は、少し子供のようなあどけない雰囲気をまとった、けれど青年のような声だった。少し休憩した私は、もう一度首を動かした。でも、今度は体力の消費を防ぐために、ゆっくりと少しずつ動かした。
わ、私は……ある子供の母親……。
ここにいるのは……夫に監禁されたから……。
「え……?」
「え……」
その人が何度も、そう声を発するのが聞こえた。
そうよね、こんな姿、見たら、誰だってそんな声が出るわ……。
え…………?
私は、大きく目を開いてそのまままっすぐ目の前の人を見た。私の目の前には、背の高い格好いい青年が立っていた。
っ!!!
その目は、私と同じ水色で、その髪は、私と同じブロンドで……って、はは、そんなわけないよね。この青年が大きくなったリク、だなんて。
目の色も髪の色も偶然。そう、ただの偶然よ。
手が伸びてきた。私は一瞬、何かされるのではないかと怖くなったが、私の口を沿って、その手が口に巻かれている布の結び目に行きついたことで、この人が私を助けようとしていることを確信した。だから、私はホッとして、身をあずけ、されるがままにした。
布を外された口は、元からそのままだったかのように、閉じることに口の周りの筋肉に痛みが走って、逆に口を開けている方が痛みが走らなかった。皮肉だった。
はぁ。口がこんなことになってしまっ……、
「マ、ママなの……?」
え? い、今、私に向かって……え……ママ?え、ってことはリ、リクなの……? 君は……いや、あなたは……リクなの……!?
「……あ、っ」
「え……?」
え。
声が上手く出なかった。もうほとんど話せないことは分かっていたけれど、うん、とか、はい、とか……私、もう、返事も……できないの……?
口から出る音は、予想していた音とは違った。
言うことを聞かない口は、私の出したい音を出してはくれなかった。それは絶望だった。目尻に涙が溜まっていった。だから、私は代わりに何回もうなづいた。首が取れるくらい、何回も何回も。溜まっていた涙が目尻から溢れて、零れ落ちた。
すっかり大きくなったリクは、私を覚えていた……。
私と同じリクの目にも涙が溢れて、同じように零れ落ちて、その嬉しさの混じる顔を見て、私も嬉しくなって。
「マ、マ、ママああああ……!!!!」
抱きしめられた腕は、ゴツゴツしていて、本当に一人前の男の人だった。抱きしめ返せなくて、苦しかった。そして、その幼少期を見れなかったなんて、本当に惜しいことをした……あいつのせいで。
でも、どうして、私のことを、ママって呼ぶのだろう。いや、嬉しいから良いのだけれど……もしかして、小さいころから私がリクのそばにいなかったから……?
私はそう考えて、胸が痛んだ。
リクは、私と同じでずっと寂しかった。それはもちろん、幼少のころは私の存在なんか気にしたことなんてなかっただろうけど、成長して、私に興味を持って、ずっと考えてくれていたのかも……しれない。
それが嬉しくて、生きてきた中で一番嬉しくて……再会することが出来て……。
本当にこれまで耐えてきて良かった、と心から私は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます