覚めたのは
そんな夢から覚めて、待っていたのは、拷問の続く地獄だった。
そこは私の知らない部屋だった。なんとも無機質な殺風景な部屋で、目の前には、どこかに繋がる奥深い通路とその最終地点にドアがあった。私は、両手、両足を頑丈な太いもので拘束されていて、それが鎖で部屋の隅にある柱のようなものに南京錠で固定されていた。首には犬が逃げないようにするかのように、首輪がつけられていて、口には布が口角が痛くなるほどきつく巻かれていた。そして、頭にも応急処置のように適当に布が巻かれていた。
「んん! んんっ!!」
ジャラジャラと金属音を鳴らしながら、取ろうと必死に身じろいでも、無駄だった。何も壊れなかったし、状況は何一つ変わらなかったし、ただ……体力と精神を犠牲に、無駄にするものだった。
「……っ」
私はどこに連れられてきたの……どうしたら……どうしたら、いいの……っ!! それに、リク……リク!!!
痛い首で必死に部屋の中を見回した。この部屋にリクはいなかった。
どこに行ったの、リクはどこに……行ったの!!!
「んっ……うっ……」
自分の無力さを後悔した。自分は母親なのに。何もできなかった。涙は、目から溢れ、頬を伝い、口に巻かれた布に吸収されていった。
私は……これから、こんなところでどうすれば、いいの……?
その時、ガラガラガラガラと目の前に広がる通路の奥から音がして、頭を上げた。
あいつだった。あいつが立っていて、遠くから私を見ていた。
っ!! あの部屋は!!
あいつの端から見えた部屋に、私は見覚えがあった。
あい、つの……部屋……? 新居の自分の部屋にこんな部屋を作ってい、た、の……?
信じられなかった。私たちの幸せを脅かしに来たのは、あいつだった。
いつの間に、こんな、監禁部屋みたいなものを……。
「あ、起きた!? ってあれー? アヤ、泣いてるのー??」
そいつは、私に向かって歩いてきて、そう言った。
「んんっ!!!! んんーーー!!!!」
リクをどこに、どこにやったのよ!!!!!
「あはは、そんなんーんーんーんー言ってても、聞こえないんだって、分かる? 意味ないんだよーー」
「……っ」
「そんな睨まないでよ~、もう可愛いなぁ」
「ん!」
唇を近づけてきて、おでこにキスをされた。
結婚したての時はドキドキして、何回もと、せがんだキスだったけれど……今となっては吐き気がした。
私は再度、睨みつけた。
「リクをどこにやった! って感じだねぇ~、大丈夫だよ。言ったでしょ、アヤ? 僕がちゃんと元気に育てるって」
「んんー!」
そんなの、嘘かもしれない。あいつはなんだって、やりかねない。そう、最近身をもって知ったから。
「じゃあね~、トイレとお風呂の時にまた来るね~! いい子にしててね~、アヤ~♡」
そう言って、またおでこにキスをされた。
「んんー! んんんんんん!!!!!!」
いくら叫んでも、あいつは振り向かないで、この部屋から出て行ってしまった。そう言えば、この部屋には普段の生活に欠かせないトイレやお風呂、その他の物が一切なかった。
我慢、させる気なんだ。
本当に屈辱だった。何もかもが。
私を……馬鹿にして!!! あぁ……リク、リク……無事でいて、リク。
叫びすぎたせいか、喉が痛かった。
あぁ、私、このまま……いやいやいや!! 駄目よ、心を強く持たなきゃ……。
母親は子供が迷子になっても、自分を呼ぶその声を聴けば、その姿を一目見れば、まるで、ペンギンが自分の家族を探すように、一瞬でその子が自分の子供だと分かる、と聞いたことがあった。
それはたとえ、その子の産声でも……まして、それしか聞いたことがなかったとしても……可能なのだろうか。
リクはどんな声をしているのかな……取り上げられてから、一度も聞いていない。普段なら、参ってしまいそうな、あの大きな大きな泣き声も、今じゃ愛おしい。リクの、声を聴きたい……。
今、思えば、そう願ったことが良くなかったのかもしれない。
そうしたら、後々リクを巻き込まずに済んだのかもしれない。
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