金属音

その時、ジャラジャラジャラと鎖のような金属音がしたのが聞こえた。必死に逃げようとしていたオレだったが、思わず足を止めた。


ん……? もしかして繋がれている……?


女の人は、一向に追いかけてくる気配がない。オレは入り口の端からそーと覗いた。


「……ん、んんっ!」


女の人は、生きているようだった。


目を凝らすと、つま先の先に鎖の一部が見えた。その女の人は後ろ手につながれているようだった。首には首輪がつけられていて、その真ん中から鎖が伸びていた。手のものと一緒に奥にある柱のようなものに、括りつけられ、何かで固定されていた。


あの金色のものは……。


おそらく南京錠だった。ジャラジャラジャラと鎖の音は続いていた。

拘束されている何かを取ろうとしているのか、身じろいでいた。くくるには長さの足りない、だが前髪としては伸びきってしまっているその髪のせいで、顔はよく見えなかった。


オレは唾を飲み込んだ。


つ、通路の奥にい、行ってみよう……。だ、大丈夫だ。あの女の人は繋がれている。襲ってはこない、だろう……。


今まで好奇心で動いてきたオレだったが、今回の動機はそれだけではなかった。

身じろいでいるのを見るが故に、その女の人は、捕らえられたのだと思った……尊敬する父に……。

尊敬する父の部屋の隠し部屋に……その女の人は監禁、されている……。

尊敬する父は、自分の部屋に、その隠し部屋に……女の人を監禁している、だから、助けなければならない、と思ったのだ。


壁に手をつきながら、通路をゆっくり進んで入った部屋は、やはり無機質な壁に包まれていた。電気は薄暗いものしか付いてなくて、だった。見渡すと、この部屋には時計もカレンダーも窓も何もなかった。トイレやお風呂でさえも。本当に殺風景な部屋だった。


目の前には、疲れ切ってしまったのか、さっきまで身じろいでいた女の人が、隠し部屋を見つけた時と同じように頭を垂れてしまっていた。


オレは思い切って、少し大きな声で言った。


「お、お前は、誰だ!! なんでここにいる!」


垂れていた頭がゆっくりと少しずつ上がっていった。


その睫毛はオレと同じで長かった。


頭が徐々に上がるにつれて、少しずつ目は開いていった。


「え……?」


ブロンドの髪が三つ編みにされている。


この女の人、どこかで見たことがある……。


オレと同じ水色の目をしている。


あの写真の中の女の人に、似ている……。


ふと、そばを見ると、そこにはたたまれた服があった。


「っ!?」


だいぶ古くなっているが、写真の中で、女の人が着ていた服、だ……。


「え……」


この女の人……女の人は……オレの……マ、マ……?


さっきまで疲れ切っていた女の人の目はオレを見た瞬間、驚いたように大きく開いた。女の人はそのまままっすぐオレを見つめていた。

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