赤い本
しばらく感傷に浸っていたが、そうだ、オレは父の部屋の中と、ママの物が何かないか見に来たついでに、自分で本を選びたいと思っていたのだった。
視界を巡らすと、ある赤い本が目に留まった。目線ぐらいの高さにある本だった。本の背には、なにやらどこかの国の言葉で題が書かれていたが、外国の言葉だったので全く分からなかった。
父はこれを読めるのか……。
父がバイリンガル、だなんてはじめて知った。いや、前から何かと秘密主義な父だ。
ママのことも、死んだこと以外教えてくれないし……。
よくよく見ると、母国語で書かれた本以外に、沢山の外国の本があった。
もしかしたら、父はトリリンガル、もしくはそれ以上なのかもしれない。
オレは、なんとなくその赤い本の中に書いてある内容を見たいと思った。外国にはまだ行ったことがなかったし、最近英語を習い始めてから、他の外国の言葉にも興味が湧き始めていたのだ。読めなくても、その字体を一目見たいと思った。隙間なく並べられた本の間から、オレはその本を引き抜こうとした。
その時、どこかでカチッと音がした。
「え? い、今の音……ってあれ、この本……抜け、ないっ」
本はいくら引っ張っても上のほうだけが中途半端に抜けそうになるだけで、すべては抜けなかった。
そして続けて、ガラガラガラガラという音がして、一部の本棚が横にスライドして、まるで扉のように開いた。
「うわっ!!」
オレは突然のことにびっくりして腰が抜け、その場に尻もちをついてしまった。
オ、オレ……何か良くないことをした、かも。
目の前には、何とも無機質な壁で囲まれた通路が広がっていた。そして、その先には薄暗い明かりの部屋があった。いわゆる隠し部屋だった。奥はあまりよく見えなかったが、きっとその部屋も無機質な壁に囲まれているのだろう。
「び、びっくりした……隠し扉に……隠し部屋……? 父がこんなものを作っていたなんて……でも、なんで……? それに、なんで急に開いたんだ……?」
視界を上げ、上の部分だけ中途半端に抜けそうになっている赤い本を見て、その謎はすぐに解けた。
「あの本のせいか……?」
最近インターネットでそんな動画を見た。その中でやっていた、隠し部屋への入り方と似ていた。
無機質な通路の奥に続く部屋には何があるか分からなかった。
「……っ」
オレはまた好奇心に負けた。オレは立ち上がると、隠し通路へと恐る恐る近づいた。
「いったい、何があるん……っ!?」
驚きの声さえも出なかった。冷たい汗が一気に溢れ出てきて、背中と顔を流れた。視界に映ったものにオレは瞬きするのを一瞬忘れた。
部屋の真ん中、通路の延長線上に、何かが座っているようだった。
か、髪の長い……人間……お、女の人……?
体格的におそらく女の人は、花柄のワンピースのような服を着ていた。
その時、それは垂れていた頭をムクッと持ち上げた。
「う、うわあああああああっっっっ!?!?!?!?」
抑えていた恐怖心が一気に弾けて、オレは踵を返した。呼吸が一気に荒くなった。
追いかけてくる……っ、殺されるっっっっ!!!
走り出そうとしたその瞬間は、死を覚悟した瞬間でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます