慈愛の天使と無慈悲の悪魔

 聞こえた声にすぐさま振り返ると、エナちゃんのお父さんの上空に黒い靄があった。

 俺は警戒しながら後退りし、エナちゃんを自分後ろにやった後、カービンを構える。


「お、お父さん?」


 状況が分かっていないエナちゃんはお父さんに近づこうとするので、俺は腕で阻止したかったが、筋力は0のため止めることが出来ずエナちゃんはお父さんの傍に近寄る。


「エナちゃん!!」


 俺は叫んで呼び戻そうとしたが、時は既に遅く、黒い靄から禍々しい腕が出てきた。その腕はエナちゃんの首を掴みそのまま持ち上げる。

 そして、黒い靄から手、足、身体が徐々に出てきて、靄が晴れると黒い靄の正体が現れた。


「やれやれ、ようやく外に出れたぞ。手間を取らせやがって」


 黒い靄の正体は頭からねじれた角を二本と背中から蝙蝠みたいな翼を対で二本生やし、褐色肌に禍々しい黒いラインに胸にはオーブみたいな埋め込められた、悪魔と思わしきイケメンだった。

 そして、エナちゃんをみた悪魔は不敵な笑みを浮かべる。


「しかし、外に出るや否やこんな極上の子供が目の前にいるとは俺は運が良いな」


「あ、………あ、あぁ」


「おい!エナちゃんから手を放せ!」


「お、何だまだ子供がいたのか。俺は運が良いな」


 俺が叫ぶと悪魔がこちらを向き俺をまるで餌を見るような目で見てきた。


 どうする。ここで今『量産』を使うか?しかし、今使うとエナちゃんに当たる可能性がある。かといって俺の攻撃手段は銃しかないし、M40を使うには近すぎる。一体どうすれば。

 俺がどう攻撃しようか迷っていると悪魔はエナちゃんを掴む力を強める。そして、エナちゃんから苦しそうな声を上げる。


「それじゃあ、さっさと力を蓄えるとしますか。まずはこのガキから」


 悪魔はそう言いと口が裂き大きな口にすると、エナちゃんを丸呑みしようとした。すると、エナちゃんがいきなり輝き始める。


「え?」

「くそ!あいつか!!」


 悪魔はエナちゃんを手放し、俺達から一旦距離を取る。エナちゃんを確認すると気絶しているだけだったが、悪魔に握りしめられていた首の痣は治って行き、発光したエナちゃんの光は一つとなった。


 そしてその光は徐々に人の姿に変わっていき、今度は頭の上に天使の輪っかがあり、背中から神々し対の2本の天使の羽を生やした、美女が現れた。


「クロム!この子に手を出すのは許しません!」

「は!まさかこのガキにアルムが憑依とは思わなかったぜ!」

「………どういう状況?」


 いきなりの怒涛の展開に追い付かず困惑していると、悪魔は会話を再開する。


「ここじゃ、アルムが有利か。上手く戦えないな。おい!アルム!こっちの世界に来い!今度こそ決着着けようじゃないか!」


 そう言った悪魔はまた黒い靄となりどこかへ消えていった。こっちの世界?


「………逃げましたか。いいでしょう。今度こそ貴方を倒します。貴方も協力してくださいませんか?」


 天使がいきなりこちらに話しかけると画面が出てきた。


――――――――――


『慈愛の天使アルム』が貴方に協力を要請しています。協力しますか?


     ≪はい≫     ≪いいえ≫


――――――――――


 ………あ、このクエストって天使と一緒にあの悪魔を倒すクエストなのか。全然ついて行けてなかったから分からなかった。………あいつを倒せばクエストクリアってなるのかな。よし、やるか。


 俺はハイを押し、了承する。


「ありがとうございます!一緒にあの悪魔、無慈悲の悪魔クロムを倒しましょう」

「了解です」


 そんな会話をした後、右上の端にアルムさんのHPバーが表示された。あ、確かパーティーを組みとパーティーメンバーのレベルとHPが見れるんだっけ。えっと『慈愛の天使アルム』レベル184!!??高すぎないか!!??


………もしかして、選ぶクエスト間違えた?


 そんなことを考えているとアルムが話しかけてくる。


「今から奴のいる世界に飛びます。行きますよ!」

「え、あ、ちょ!ま」


 そうして、俺は天使アルムさんと一緒に転移した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る