第35話:兄妹喧嘩も命懸け
乱暴に開放した扉を内側からすぐに施錠して、ベッドやタンスで簡易的であるがバリケードを形成する。
「よ、よしっ。これでちょっとはだけど時間を稼ぐことができるぞ!」
改めて周囲を
新調する時期をとっくにすぎたベッド、衣類をきちんとしまった衣装ケース、暇を持て余した時はいつもぼんやりと景色を眺めた窓……この部屋には数えきれないぐらいの思い出でいっぱいで、だからこそライシはここにきた。
確かアレはこの辺りに入れておいたはず……! 丸ごと引き出しを外へと引っ張り、奥の方からコロコロと転がってきた小瓶にライシはぱっと花を咲かせた。
それが目当ての物なのは言うまでもなく、この小瓶こそがアスタロッテ達を制止できる唯一無二の手段だけに急ぎ戻ろうとするライシの前に、五人の美しく可憐な悪魔が立ちはだかる。
「自分からこのような場所にお逃げになるとは……さすがのライシお兄様も、焦って冷静さを失いましたか?」
と、見るも無残に破壊されたバリケードの残骸を踏み越えてやってくるアリッサが不敵な笑みを静かに浮かべた。
ハリボテ同然のバリケードではこの結果は至極当然であり、しかし布石はすべて整えられた。
ライシがにやりと同じように不敵な笑みを返せば、アリッサから今度は怪訝な眼差しを送られる。
「……袋のネズミであるのにその余裕を含んだ笑み。やはり私達のお兄様……何かここを突破できる策が終わりのようですね」
「策と言うか何というか。とりあえず、まずはそこを普通にどいてほしいんだけど。俺は一刻も早く母さんたちの所に戻らなきゃいけないからな」
「そう言って、この城から……私達の前から出ていくおつもりなのでしょう?」
「いや、さすがにこの状況で逃げ出したら後味が悪すぎるだろ。まぁ旅には出るけど」
「やっぱり出ていくおつもりじゃないですか!」
「そりゃなぁ……だってそう言う契約、ではないにせよそのつもりで
「行かせません……絶対に行かせませんからね!」
「ライシ兄上様ぁとりあえず腕の一本や二本や三本は覚悟してくださいねぇ」
「ライシお兄ちゃんはずっとボク達といるんだからね!」
「ライシのアニキ……ウチ、本気でいくからな!」
「にいちゃはずっとずっと、ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………――っとクーと一緒だもん!」
「お前ら……」
と、各々得物を手にジリジリと迫る五姉妹にライシは小さく苦笑いを浮かべた。
とりあえずエスメラルダの発言は狂気でしかなく、クルルは過剰なぐらい溜めなくても気持ちは十分に伝わってきた。
どうやら俺は、愛されているらしい。血の繋がりがないとわかっても、兄として今も慕ってくれるアリッサ達に、ならばまずは彼女らには冷静さを取り戻してもらうことが必要不可欠なので、ライシはゆっくりと霊鋼剣アルガスを鞘から抜いた。
「――、安心しろ。俺がお前らにこの剣を使うことはない」
かわいい妹達だ、剣やもちろん拳も使えないし元より使わない。
ならば何故、戦う意志のない者が剣を抜く必要があろう。今正にアリッサ達の視線はそう訴えていて、その質問に答えるべくライシは剣を頭上へと
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