冷めたスープ
私の気付かないうちに、兄は宿を取っていた。
スマホでホテルの名前を調べる。普通の格安ビジネスホテルだった。
兄は要領が良い方ではないが、準備と機転には事欠かなかった。
色々な店のカードを持ち歩いていて、いかに効率よくポイントを貯めるかなんて話をしていた。兄は自身のことを合理主義者だと言うが、それは事実であった。
たぶん、父に似たのだと思う。
先に晩ご飯を食べてしまおうという話になった。
「何食べたい?」
「焼肉」
近所に焼肉の店が無かったので、通り道にあった洋風の店に入った。
「いらっしゃいませー」
やる気の無い声が聞こえた。
セルフサービスの店だった。ピザやパスタが点々と並んでいる。
料金は先払いだった。
レジで二人分の料金を払い、案内された席に着く。他に客は一人もいなかった。
鞄も上着も置いて料理を取りに席を立つ。温熱ライトに照らされた料理は、やはりどれも冷めていた。
右から順に、ピザを一切れずつ取った。
席に戻り、コーンをツナのピザを一口囓った。不味くはないが、美味くもない。冷めてさえいなければ、それなりに美味かっただろうか。
なかなか席に戻らない兄を探すと、皿いっぱいに冷めたピザを積み上げ、丁度こちらへ戻ってくるところだった。
席に着き、トマトとチーズのピザを口にする。
「冷たい」
「スープはそれなりにあったかいよ」
私がカップを差し出すと、なるほどと言ってピザをスープに浸した。
「それあげるよ」
私は新しいスープを取りに行った。
戻ってくると、皿に盛ったピザは既に半分ほどが無くなっていた。
交互に料理を取りに行く。四度ほど繰り返し、最後は兄が食べ終わるのを待って、店を出た。
「ありがとうございましたー」
兄が車の鍵を開ける。虚空に向かって、私は頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます