展望


 スマホで展望台を検索する。

 頻繁に飛行機が離着陸を行う滑走路のすぐ近くにある施設で、無人だが夜も開いているらしい。

 

 兄はこの場所を知っていた。きっと、来たこともある。

 兄は飛行機や電車なんかが好きで、よく大きなカメラを持って写真を撮りに出かけていた。

 私がその写真を見たことは、一度もない。

 

 展望台へ到着する。

 広い駐車場に車は無い。

 扉は開けっ放しになっていた。

 

「行くよ」

 

 階段の奥に、トイレと自販機。飲み物を二本買い、兄を追いかけた。

 

「コーヒーとミルクティー、どっちがいい?」

「牛乳」


 ミルクティーを手渡した。

 

「ありがと」

 

 兄は、私から受け取った缶を、飲まずにそのままハンドバッグにしまった。

 ありがとうと言われるのは、久し振りな気がした。

 

 兄は写真を撮っていた。

 私は設置されている双眼鏡に百円玉を投入した。しかし、目が悪いのか機械の故障かよく見えず、何も見ぬままシャッターが降りてしまった。

 兄は、私が双眼鏡を使っていたことに気が付いていないようだった。

 

 白い息をつき、ベンチに腰掛ける。ぬるいコーヒーの缶を開ける。

 カメラの電池が空になるまで、私は写真を撮る兄をぼうっと眺めていた。




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