ドライブに誘われた。ケーキのお礼だそうだ。

 兄は車の運転が好きで、マニュアル車の免許を持っていた。

 車に乗るのは嫌いではなかった。二つ返事で了承した。

 

 兄は、家の車に乗ることを禁止されていた。

 両親曰く、運転が荒く危なっかしいらしい。

 私が何も感じないのは、まだ車の運転をしたことが無いからだろうか。

 

 スマホの着信。

 

 兄が家の前につけた車は、マニュアル車だった。

 私は助手席に座る。兄の鞄以外荷物は無い。防腐剤の匂いがつんと鼻についた。

 

 行き先を決めるより前に、車が発進する。

 前屈みに身体が揺れる。シートベルトをした。

 

「レンタカーって高いんじゃないの」

「友達から借りた」


 今時、マニュアルの車に乗っている友達がいるのだろうか。車好きの兄の友達には車好きがいたのか、或いは私が気を遣わぬよう言ったのかも知れない。

 

 レンタカーかどうかはナンバープレートを見れば分かるということを知ったのは、それから暫く後のことだ。

 コンビニに立ち寄った時、私は車の写真を撮った。

 兄は写真を撮りたがらなかった。私は時々、こっそり写真を撮っていた。

 きっと確かめられる。今更確かめる気はないし、意味も無い。

 

「どこか行きたいところは?」

「兄貴は?」


 少し悩んだ後、兄は答えた。


「異世界」

「ナビで出る?」

「出ない」


 私の提案で、隣町の水族館に行くことになった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る