流行


 それは、とある高校生の、バンド仲間二人の恋物語だった。

 

 バンドのメンバーは五人。二人は、それぞれベースとドラムを担当していた。

 

 寡黙で落ち着いた性格の男の子。

 活発で明るい性格の女の子。

 相反する性格の二人は幼なじみで、昔から兄妹のように接していた。

 

 二人は音楽を通し、互いが互いにとって特別な存在であることに気付く。

 そんな中二人は、冬休みに入る直前、二人きりで初詣に出かける約束をする。

 

 迎える当日。二人が合流してしばらく歩いていると、女の子が急に男の子の手を引いて物陰に隠れようとする。

 なんと、同じ神社に他のバンドメンバーも来ていたのである。

 実は、二人は彼等の誘いを断って、ここに来ているのだ。

 

 息を潜め、他のバンドメンバーをやり過ごす。

 気付くと二人の距離は急接近。

 その後、男の子が女の子に告白し、二人は結ばれる。

 

 そんな内容だった。

 


 これは流行らない。

 兄には申し訳ないが、一通り読み終えた後、私はそう思った。

 実は私は、これを読む前に、有名な投稿サイトでいくつか人気の小説を読んで予習をしていた。最近の流行が分からないからだ。

 

 車に轢かれて、異世界に転生する話。

 寿命で死んだ後、記憶を受け継いで異世界で生まれ変わる話。

 いつの間にか死んでいて、異世界でとてつもない能力を持って生まれる話。

 

 人気作品そのほとんどが異世界。ファンタジー。転生。

 素人の私にも分かる。この際小説の面白さは別として、このサイトに小説を投稿する限り、人気ジャンルを踏襲することが小説を読んでもらう一番の近道なのだ。

 

 私はそれを、兄に言うか迷った。

 

 兄はとっくに分かっているのかも知れない。

 分かった上で、この小説を書いたのかも知れない。

 流行のジャンルに則って書いたところで、それはきっと兄の書きたい物ではない。

 迷った。迷った末に、私は伝えた。

 嫌な顔をするかと思った。

 

「ありがとう。でも、知ってる」

 

 嫌な顔をしたのは、私だけだった。

 

 

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