小説
兄はノートパソコンの画面に向かい、夢中でキーボードを叩いていた。
私が部屋に入ってきたことには気づいていない。おそるおそる画面を覗き込む。
その時、パソコンの液晶に反射して私の顔が映り込んだ。
わっ、と声をあげ、兄はノートパソコンの電源ケーブルを引っこ抜いた。バッテリーが残っているので画面は点灯したままである。兄は、私の顔とノートパソコンの画面を交互に見てから、画面を閉じた。
「何書いてるの」
「何でもないよ」
或いは、兄が思いを寄せる女性にメールでも書いているものかと思った。
どうやらそれは違う。一瞬だけ見たノートパソコンの画面。表示されていたのは、メールでもWEBサイトでもなく、テキストファイル。
すぐに分かった。
確か、兄の友人で小説を書いている人がいた。
兄はこれといった趣味はないが、人に影響されやすく、色々のことに手を出していた。
小説を書くのも影響されたのだ。
その後も私は、小説のことを言及しないでいた。しかし、ひと月ほど後に何気なくそのことを聞くと、あっさりと話してくれた。別に、隠したかったわけではないそうだ。
小説の試し読みを頼まれた。
兄は、有名な投稿サイトに小説を投稿しているらしい。しかし、一向に閲覧数は増えない。
そこで、何が問題か一緒に考えて欲しい、ということだった。
私は小説を自分で書くことはないにしても、読むことはそれなりに好きだった。
小学生の頃、ボール遊びに興じるクラスメイトを傍目に、ずっと市立図書館で借りてきた本を運動場の手洗い場の側で読んでいた。
「専門家じゃないから参考になるかは分からないけど」
「構わないよ。俺だって専門家じゃない」
私は承諾した。
一篇の小説をプリントアウトし、手渡された。
表情の少ない兄だが、その時は少し緊張したような表情をしていたような気がした。
ほんのり温かいコピー用紙を受け取る。
自室に戻り、ベッドに腰掛ける。
小説は、確かこんな話だった。
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