二つ年上の兄がいた。


 学業普通。

 運動普通。

 友達は少ない。

 これといった趣味はなかったが、歌を歌うのは少し自信があったらしい。

 

 ああ、それから、恋人は一度もできたことが無い。

 以前私が冗談で、彼女はいるのかと聞くと、

 

「もし俺がとお前が血の繋がった兄妹でないとしたら、俺と付き合いたいと思うか」

 

 などと言われた。

 私は兄のことが好きでも嫌いでもなかった。いや、どちらかと言うと好きだったのかも知れない。何と返事したのかはよく覚えていないが、それが肯定ではなかったことは確かだ。

 

 優秀でなく、それでいて優秀でなくもない兄は、ほどなくして大学に進学した。

 学部は……私の記憶が正しければ、工学部だった。私は、兄が何の勉強をしているのかはよく知らなかった。


 一方、私の成績は兄より劣った。

 高校は兄と同じところに進学したものの、大学受験に失敗し、浪人した。


 両親や高校の先生からは、散々小言を言われた。兄はいつも私の話を聞いてくれた。

 良い兄を持ったと思った。兄が内心では私のことを馬鹿にしているのではないかなどと考え、洗面台の前で唇を噛んだ。

 

 ある日のことだ。私が予備校から帰ると、いつもは開きっぱなしになっている兄の部屋のドアが、珍しく閉まっていた。

 私はほんの悪戯心で、ノックせずにドアを開いた。

 

 

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