兄
◆◇◆◇
むかしむかし、ある所に金髪の王様がいました。
小さな国の王様は、お后様でも側室でもない女と子を成しました。
銀髪の女でした。
銀髪の女は子供を産むと同時に命を落としましたが、王様はその死にもその子供にも興味がありませんでした。
銀髪の子供は、与えられた小さな部屋の中だけで過ごしました。世話をしてくれるメイドはいましたが、話し相手にもなってくれませんでした。
そんな中でも、銀髪の子供は幸せでした。腹違いの兄、つまり金髪の王子様が、随分可愛がってくれたからです。部屋にこっそり遊びに来ては、銀髪の子供を膝に乗せて遊んでくれました。中でも、子供は膝の上で聞く英雄譚が大好きでした。ハッピーエンドのめでたしめでたしが、大好きでした。
ずっとこのまま部屋から出られなくても、兄がいるならそれでいいと、めでたしめでたしだと、子供は思っていたのでした。
銀髪の子供が10歳になった日、お城に不思議な赤い宝石が届きました。初めてクリアしたダンジョンの最奥で手に入れたそれは、王様に献上されたものでした。
その小さな宝石は使い道が分からず、王様は興味を示しませんでした。その赤さにほんの少し目を向けただけの王子様にあげるほど、興味がありませんでした。
王子様は、宝石をこっそり銀髪の子供にあげました。使用人には見つからないように、と言いつけておきました。
宝石を受け取った子供は、宝石を隠すために口に含みました。子供の部屋には、なにかを隠す場所などなかったからです。
しかし宝石は口の中で溶けてしまいました。
それから、子供は子供のまま、大きくなりませんでした。歳を、とらなくなりました。
今まで兄として子供を可愛がっていた王子様は、歳を取らなくなった子供を化け物と蔑み、怯え、近づかなくなりました。王様は子供を殺そうと外に捨てました。子供が最後に兄にかけられた言葉は、おぞましい、でした。
しかし、死ぬはずだった子供は、死なずに隣国までたどり着きました。治療魔法が使える子供として、死にかけのところを拾われ高く売り飛ばされたのです。
それから、歳を取らない子供は、色々な冒険者に買われてダンジョンへ入りました。
でも、銀髪の子供はそんな冒険者達に興味が無かったので。
冒険者が怪我をしても、魔法を使いませんでした。
めでたしめでたし。
◆◇◆
「久しいな」
王になった兄の言葉に、全ての兵が頭を下げ身を引いた。全ての刃が私の首へと向かう。
「では、死んでもらおう」
兄が大好きだった。世界で唯一優しくて、世界で唯一私の存在を認めてくれる人だった。だから。
こんなに嫌われるなんて、思っていなかった。
「お兄ちゃん」
「……」
無言で睨まれた。別に、もういい。
「私、成功した。新聞に載った」
「……」
「1番速いお兄ちゃんが、私の仲間」
どうだ、少しは見返せたか。
少しは、私に興味が戻ったか。
「……おぞましいな」
「……ん」
もういい。ロイ兄とダンジョンに潜れたし、初めて楽しいパーティに入れたし。新聞に載ったし、剣聖とロイ兄の戦う姿も、きちんと目に焼き付いている。
別に、本物のお兄ちゃんが私の事を嫌いでも、もういい。
兄が最後にくれた死を受け入れて、目を閉じた。
「すんません王様! ウチのパーティがまたご迷惑をおかけしたようで!」
兵士の武器の向きが一斉に変わる。
「全員危険人物なのは認めるんですが……」
いつの間にか、肩に手が置かれていた。ぐっ、と引き寄せられて、大きく硬い手のひらに顔を拭われる。
あれ、私の顔、濡れてる。
「泣かすってのはどういうつもりだ、あ?」
黒髪が、揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます