絶対の言葉
目が覚めた時には、揺れる荷車の中にいた。
目線をずらして見えたのは、金髪を乱した不機嫌そうな女と、憲兵に武器を向けられたパーティメンバー3人。ニコラは人を殺しそうな目で憲兵達を睨みつけ、アイナは冷たい目でにこにこと笑っていた。スイは慌てていた。
私は。手首を縛り上げられ、転がされていた。
「……人攫い憲兵」
「はっ!?」
途端に憲兵達が慌て出す。
憲兵は、国の意志を体現し国民を守る兵士だ。彼らには、大義がある。ただの冒険者とは、決定的に異なる
その憲兵が、私が縛り上げられていることを見逃している。この国でこんなことが起きるなんて、異常事態だ。
「な、何を言っている! そこの冒険者3人が女性を襲っていたんだ! だから我々憲兵が取り押さえてだな……」
憲兵ごときにニコラが取り押さえられるものか。だが、私達は憲兵に逆らえない。別に逆らおうと思えば逆らえるし、実際逆らったこともある。しかし、ロイ兄が言ったのだ。
いつも街の人を護ってくれる憲兵に、迷惑をかけてはいけないと。
だから、ニコラもアイナもスイも、大人しくしているのだ。
「私、捕まる? 牢屋、やだ」
「違うわよ」
恐らくスイのドジに巻き込まれたためにボロボロの金髪の女が、ムスッと口を開いた。
「あなたには捜索依頼が出てたの。隣国からね。だから憲兵も、着いてくるのは国境までよ。あなたを拘束したのは、これ以上迷子になられたら困るから。痛くは無いでしょ?」
「人違い。私、迷子じゃない」
「有り得ないわ。私、人を見る目に絶対の自信があるから。あなたは隣国の王様が探している迷子ちゃん。ダンジョンに潜らない依頼としては、間違いなく最高額の達成報酬なんだもの。前々から目をつけてたのよ」
憲兵達が目を瞑る。助けてはくれないということか。
「王様相手に、逆らえる人なんて居ないのよ。大人しくしてなさい、迷子ちゃん」
ニコラ、私、帰りたい。
その言葉は、王様相手、という女の言葉に引っ込んだ。
そうだ、ここでみんなが暴れれば、みんなは牢屋行きかもしれない。いや、確実に牢屋行きだ。
「……逃げないから、解いて」
「私があなたを信頼する理由がないわ。私もプロとしてこの依頼を受けてるの、悪いわね」
「うふふ」
唐突に笑いだしたアイナが、ちょい、と私の手首を指さす。いつの間にか、縄が切れていた。
「アイナ、ありがと」
「いいのよ、ミア。私だって、ちょっと怒ってるもの」
金髪の女は顔を引き攣らせ、憲兵は武器に手をやり腰を浮かせる。別に、抵抗する気は無い。ただちゃんと座りたかっただけだ。その後も大人しく荷車に揺られること、数時間。
国境についたのか、憲兵達が女を心配しながら荷車を降りた。憲兵はニコラ達も連れていこうとしたのだが、全員どうしても荷車から降りなかったので諦めていた。金髪の女の方が。
「別に私はその迷子ちゃんだけ連れて行ければいいから、あなた達は帰ればいいじゃない。本当に国まで越えるつもり?」
「ミアを1人にできない。俺たちはパーティだ」
「ふん、随分仲間思いね。というかロリコン? こんな子供と……まさか、あなた達が誘拐犯じゃないでしょうね?」
「……う、」
ニコラがお腹を押さえて俯いた。あ、大変だ。
「は? 急になによ、誘拐犯じゃないのは見ればわか……まさか急病? やだ、大丈夫? 引き返す?」
金髪の女が慌てて立ち上がったが、もう遅い。
「うおおおおお!!」
「きゃあっ!」
ニコラが荷車を降りてどこかへ走り去った。たぶん国境の門に体当たりしに行ったのだ。スイが慌てだし、魔法を暴発させて大量の水が降ってきた。アイナはいつの間に盗んだのか、女のものらしき財布の中身を確認していた。
「な、な、なんなのよ! 別に、私迷子を家に送り返してるだけなのよ!? なんでこんな目に、こんな小さい子、早く家に帰さなきゃ大変でしょう!?」
「ミアは27歳よ」
「そんな冗談通じるわけないでしょ! 私、人を見る目に絶対の自信があるって言ってるじゃない」
「……ん。私、7歳。10歳ずつ折り返してる」
「そんな冗談通じないって言ってるでしょ!? それ途中ゼロ歳じゃない!」
隣国についた瞬間、隣国の憲兵に捕まっていたニコラをなんとか解放してもらって、ずぶ濡れの服を変えて、食事を取って立派な馬車に乗った。全部金髪の女がなんとかした。
「バリキャリ」
「嫌味!? ちょっとは自分達で動きなさいよ! なんで迷子ちゃん以外の面倒も見なきゃいけない訳!?」
「帰っていい?」
「お城に帰るのよ! あなたどうせ王族の隠し子とかでしょ!? もう迷子になっちゃダメよ!」
本当に、この女は見る目があるようだ。ちょっと面白い。
数日かけて城に着けば、突然ニコラ達が城の衛兵に捕えられた。
「離して! ニコラ、アイナ、スイ!」
「ちょっと、私は依頼を受けて、わざわざ国外から出向いたのよ? この態度、私はあなた達兵士と違っていつだって依頼を蹴ってもいい自由な冒険者だってこと、忘れてるんじゃないかしら?」
この女、やっぱりちょっと良い奴かもしれない。あんなにニコラ達に怯えたり怒っていたのに、助けようとしてくれるなんて。
「私、見下されるのが大っ嫌いなの。その危険人物達は正直どうでもいいけど、こんなコケにされて黙ってられないわ」
ちょっと気が強いだけみたいだ。
だが、金髪の女はいきなり衛兵に殴られて気を失った。
「え?」
何が、起きた?
「牢にでも入れておけ。この方さえ連れていけば問題はない」
「やめて!」
自分の小さな体が恨めしい。攻撃魔法のひとつも使えない自分が恨めしい。
私を引っ張る衛兵の腕に噛みつきながら、酷く立派な部屋の前に連れてこられた。
「帰る!」
「……」
暴れても叫んでも、誰も答えない。ただ、扉が開く。
目の前に広がる厳かな空間、奥に在るのは金髪の王と玉座。
「久しいな」
王の言葉に、全ての兵が頭を下げ身を引いた。
「では、死んでもらおう」
私の兄の言葉は、ここでは絶対だ。
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