118話 ルカとテオの手紙

 差出人はルカだった。


 手紙は、【連絡が遅くなって悪いな】という一文から始まった。



【ソフィアへ


 連絡が遅くなって悪いな。こっちも慌ただしくて、最近ようやく大分落ち着いたんだ。


 今回手紙を書いたのは、伝えたいことがあったからだ。

 驚くなよ?


 この手紙が誰かの手に渡ったら困るから名前は伏せるが――。



 筆まめ野郎は、生きている。



 今も俺の隣で元気に手紙にいちゃもんつけてるよ。


 あと、『あんなに感動的な手紙書いて格好良く去ったのに、結局生きてましたなんて、すごく恥ずかしい。次に会う時、どんな顔してソフィアに再会すればいいか分からん』って言ってるぜ。


 ほんと、馬鹿な奴だよな?


 どんな姿でも、どんな形でも、生きて会えるだけで嬉しいものなのにさ。


 俺達は今、帝国を変えるために動いている。

 

 お前が国を出る前に約束しただろ?


『これから世の中はもっと変わる。変わらないなら、俺が変えてやる。お前も俺も、もっと自由に、平等に、自分らしく生きられる世の中になるって信じて、絶対に諦めない』って。


 あれ、ただの口約束じゃねぇよ。


 具体的なことはアーサー様宛の手紙に詳しく書いたけど、もうすぐ、色んなものが変わる。


 夢が、現実になる。


 俺や父さんや、母さん、筆まめが、お前と再会出来る時もきっと近い。

 


 だから、その日まで。


 お互い、諦め悪く生きようぜ。


 それじゃ、最後に筆まめからの伝言、書いておく。



『幸せになれ、ソフィア。アーサーが好きなのだろう?俺が気付いていないとでも思ったか?


 ふふん、俺は女性の心が分かる良い男だからな、お見通しだ。


 お前のことだ、色々考えて迷っているに違いない。そこで俺からの助言だ。よく聞くのだ。



 人生は一度きり。過去には戻れない。選ばなかった選択肢の先にある未来を悔やんでも、もう遅いのだ。


 だから、挑戦せず後悔するくらいなら、あたって砕けて後悔するのも悪くあるまい。


 現に俺も、死を覚悟していたが今こうして生きている。


 人生、案外どうにかなるものだ。周りを気遣うばかりでなく、自分の幸せを追い求めろ。


 お前の幸福を何より、願っている。 


 また会いに行く。冬祭り、楽しみにしているぞ。


 では、またな』 】



 ソフィアは片手で目元を拭うと「良かった」と呟いて顔を上げた。


 正面に座って同じように手紙を読んでいたアーサーも、潤む目を細めて「あぁ、本当に」と微笑みを浮かべる。


「アーサー様の手紙にはどんな事が書かれていたんですか?」


「テオとルカ様がこれからやろうとしている計画の一部が書かれていたよ。あと『俺のソフィアを守れ』だって。まったく、お前のものじゃないって何度言えば分かるんだろうな、あいつは」


 むすっとした顔でテオへの不満を口にするアーサーを眺めながら、ソフィアは「ふふっ」と吐息混じりの微笑をこぼす。


 暖炉の炎がパチパチとはぜる音を聞きながら、温かな気持ちを胸に抱いて、二人はしばらく無言で喜びを噛みしめた。


「これで、あいつとの約束を果たせるな。いつか三人で冬祭りを見に行こう」


「ええ!ふふっ、三人で手を繋いで行きましょう」


「真ん中はソフィアで頼むよ。テオとなんて無理だよ」


 腕組みしてツンとそっぽを向き、「何が悲しくてアイツなんかと」と言う彼の横顔には、隠しきれない喜びがにじんでいる。


 ソフィアはますます笑みを深めた。


 悲しいことも辛いことも今まで沢山あった。

 これから先も毎日、大なり小なり大変なことはあるのだろう。


 それでも、いつか訪れる楽しい未来を想像したら生きる気力がわく。

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