第73話 おつかれロイド【side:テオ】

 その後、無事に宿泊離宮に戻ったテオたちは、扉をコンコンとノックした。


 すぐさま中から、精一杯テオのふりをしたロイドの意外にも流暢な帝国語が返ってきた。


【俺は今就寝中だ。『帝国男児』たるもの、眠るのは『強さ』を維持するために必要なのであるのだ。要件ならば明日、うけたまわる……ではない……聞くぞ!】

 

 一生懸命テオの振りをしようと頑張っているものの、所々ロイドの生真面目さがうかがえる言葉に、扉の前に立った三人は思わず顔を見合わせた。


 くすくすと悪戯な笑みを浮かべたアーサーが【僕だよ。開けておくれ♪】と声をかけると、すぐさまドアが開き、三人は部屋に無理矢理引き込まれる。


 ロイドはげっそりやつれた表情をしていた。


「お前たち、帰ってくるのが遅い!!一体どこをほっつき歩いていたんだ!はぁ……緊張の連続で胃が持たん……」


「お疲れ、ロイド。何か問題はあったかい?」


「何人か訪ねて来たが、『就寝中』という無理矢理な言い訳で回避した。恐らく気付かれてはいないだろう」


 疲れた様子のロイドを含め、その場にいる全員に向けて、テオはもう一度深々と頭を下げた。


「協力に感謝する。おかげで俺は自分の夢を思い出せた。お前たちに出会えて、本当に良かった」


 顔を上げると、そこにあるのは案の定、優しい笑顔で……。

  

 テオは強さもやせ我慢も何一つしない、ただ心に浮かんだ感情のまま、思いっきり豪快に笑みを返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る