第20話 初めてプロの会社へ!?

学園祭が終わり、学校も休日なので由姫達はスタジオにいた。その

休憩の時に、美麗がスマホを見てると自分達のニュースを見つけた。


それは学園祭のライブで由姫がアカペラで歌っている所がよく

使われていた。


「こうして見るとすごいよね由姫さん」

「うん。私じゃこんなに大勢の前では歌うのも難しいかも」

「さっすが由姫だね」

「人の多さは関係ないわ。どこでだろうと歌うのが私の役目

だから。それをしただけ」

「それでもすごいと思いますよ美波さんは。その証拠にさっきも

たくさんの方々に言われてたじゃないですか」

「ほんと、ほんと。すごい囲まれたよね」


スタジオに入る前、いや、駅についてからずっとファン達が

集まってきていたのだ。これまでもあったが、テレビで

取り上げられてからさらに知名度が上がり、どこに行っても

誰かに声をかけられる様になっていた。


練習が終わり、帰ろうとすると健に呼び止められた。それは

店の前がファン達が集まっていて大変になっていると

伝えてきたのだ。


「どうしようか由姫」

「健さん裏から出れるかしら?」

「仕方ないね。裏にもいるかもしれないけど、表よりは

ましだろうから。そっちから出な」


言われた通りに裏から出ようとした時、美麗が止まった。


「どうしたの美麗」

「私がおとりになるよ」

「美麗!」

「大丈夫!私そういうの好きだし。皆はさっきに行って」

「私も残るよ美麗!」

「夕子」

「由姫さん達は先に行ってください。後で連絡します」

「夕子」


美麗と夕子は表から出ていった。当然ファン達に囲まれて

しまう。しかも裏にもいた子達も表に行ったので裏から

出やすくなったが、由姫は密かに思っていた。


あのやりとりなんだったのかしらっと。


夜。家に戻ってゆっくりしている由姫。そこに美麗から

連絡が来た。どうやら今帰れた様だ。それまでずっと

ファン達とオフ会の様な事をしたらしい。由姫もとりあえず

お疲れ様と返事を返した。


由姫はテレビをつけた。そこにも自分が映っていて不思議に

思った。テレビを見ながらパソコンで曲を作っていると

一通のメールが来た。いつものスカウト系かと思い見ない

様にしようと思ったが何故か思わず見てしまった。


「ここは初めて見る会社ね。これは」


由姫は何かが目に留まった。それを確認して曲作りを

続けた。それから新曲ができたので由姫達はライブ前に

練習をした。


「美波さん。これは今週のライブでするのですか?」

「いえ、今週はまだしないわ。来週にするからそれまでに

ちゃんとできるようにして」

「なんか今までと違う感じだよね由姫」

「たまには違う感じのもいいかと思ってね」


大会予選は長いのでそれまでに飽きられないように違った

曲調にするのも当然の対策だった。他のバンドもそう

していた。でも、由姫がそうするのは珍しいと里奈は思った。


ライブ当日。会場に向かうと当然の様にもうファン達が

集まっていた。それを見て由姫達は見つからない様に

一人ずつ中に入っていった。


楽屋に入り、運営の人が挨拶に来た。


「今日は今まで以上にお客さんが集まりそうだよ。やっぱり

テレビに出ると影響が違うわね」

「私達は出たつもりはないのだけれど」

「それでもこんなに影響があるんだからそれはあなた達の

力よ」

「私達の力」


そう言われて由姫は何かを考えた。それから時間になり

ライブが始まる。由姫達は最後に出るのでそれまでは

いつも通りのライブだったが、由姫達が出る番になると

さらに客が増え出した。それをアストレアのさくらや

楓達は楽屋で見ていて驚いていた。


そうして由姫達が出ると今日一番、いや、これまでで

一番の盛り上がりを見せていた。それは由姫が学園祭で

披露したあのアカペラをやったからだった。


そうしてライブが終わり、翌日の結果は当然由姫達が

初めてダントツで一位になった。日曜のライブも

同じかそれ以上に人が集まっていて、取材とかも多く

来ていた。


その話題はしばらく消えることもなく由姫達はもうプロと

同じくらいの知名度になっていた。


そんな中、由姫ある会社に来ていた。そこはレコード会社

でどうやら最近新たらしく設立したらしい。


「NewWorld社。どういうところかしら」


由姫は初めて会社に訪れた。これまでにスカウトされたところ

には一度も行かなかったが、何故かこの会社は引っかかり

話を聞くことにした。


いかにも都心にあるビルの中に入るとそこも綺麗なオフィス

みたいな感じで、受付に行くにも緊張をした。そこで

メールに書いてあった人を呼んでもらい待った。


「美波由姫さんですか?」

「はい」

「今日は来てくれてありがとう。私、NewWorldでマネージャを

やっている阿部京香あべきょうかです。よろしく」


名刺を渡させる由姫。長い髪にスタイルのいいいかにも大人の

女性という感じの京香。その京香に会社の案内をしてもらった。


このビルの最上階に会社があり、そこに着く先にオフィスの

方を案内された。新設だけあってとても綺麗だった。

それからスタジオの中に案内される。


そこには雑誌でよく見るスタジオのミキサーがあったり

色んな機材があった。


「ここがプロのスタジオ」

「どう?まだ本格的に使った事はないけど、すごいでしょ!

そして、このスタジオを最初に使うのはあなた達って

決めてるの」

「私達が最初?」

「そう。それだけ私達はあなた達に期待してるって事。それが

伝わってもらえると嬉しいわ」


それからスタジオの中を色々見せてもらった。そうしていると

誰かがやってきた。


「阿部君彼女はいるかい?」

「社長!いますよ」

「社長?」

「初めまして社長をしている東堂真とうどうまことです。君の

活躍は聞いてるよ。どうかね?うちでデビューするのは」

「デビュー」


由姫はずっとプロになるのを夢見ていた。でも、今までの

スカウトを断っていたのはまだ自分達の力がないからだと

言い聞かせていた。それは今でも変わらない。でも、この

会社に何か引っかかったのと、楓に会って、その楓が孝弘で

あるかを確認したいのとで思いが混ざっていた。


「ごめんなさい。今はまだできないわ」

「あなたは他の会社のスカウトも断ってるみたいだけど

それはどうして?」

「自分の力がまだプロではないと思ってるからよ。それが

自信になったらすぐにでもなるつもり。でも」

「何かで迷っているみたいだね。それが消えたらいいのかな?」

「そうですね。その時は自信を持ってプロになるわ。だから

それまではまだ。ごめんなさい」

「大丈夫よ。私達は待ってるから」

「そう。君が、君達がうちのトップになるのを信じている。だから

決まったら是非私達に声をかけてほしい」


そうして由姫は会社を出た。部屋に戻り、二人の名刺を

眺めた。由姫は社長の真が少し父親に似てると思った。意外と

由姫は父親が好きな方だった。


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