第19話 再開と大成功

張り詰めた空気が漂っている屋上。その中心に由姫がいた。そして

由姫が頭を下げた。そこまで深くではないが、あの由姫がそういう

行動をした事に美麗達は驚いた。


由姫は学園祭でのライブを承諾した。もちろん大会の方も全力で

する条件は同じだ。それを美麗達も受け入れた。美麗と夕子と

里奈もごめんと言い、由姫達の亀裂はどうにか修復した。


由姫がこうした理由を聞くと、楓や洋子に言われたからだと

素直に話した。それを聞いて美麗達は洋子に抱きついて

感謝をした。里奈はまだ少し黙っていた。

それを見て由姫が聞く。


里奈はあの楓がそんな事を言うなんてと思っていたらしい。それは

やはり楓が孝弘なんじゃないかと思ってしまう様な行動だった。


それから由姫と里奈は教室に戻り、いつも通りに二人で作業を

手伝った。それを見てクラスメイト達も安心した。


由姫と里奈は家に帰ってからもこれからの事を話し合っていた。そこに

由姫の父親、美波宗みなみしゅうがやってきた。由姫の父親

だけあってイケメンでさらに元ミュージシャンというハイスペックな

父親だった。


最近由姫が落ち込んでいたのを心配していて、里奈がやって

来たので話を聞こうと思ったらしい。


里奈もその事で二人に謝ったが、由姫はもう大丈夫と言い

宗も里奈に攻める事はなかった。里奈は宗に孝弘について

も聞いた。宗ももしかしたらそれは孝弘じゃないかと

思った様だ。ただ、楓の過去を聞いて最悪な状況かもしれない

とも話した。


それは孝弘が親に捨てられ、心を閉ざしてしまったのと

もしくは、そのせいで記憶ごとなくなってしまったという

事だ。それを聞いて二人はそうあっては欲しくないと

思った。


二人が戻り、一人部屋にいる由姫。さっきの話をまだ

気にしていた。


「記憶がない。そんな事。孝弘」


由姫は一人エッチをした。昨日まで落ち込んでいてできて

いなかったからか、何回もしてしまった。当然、全部

孝弘、もしくは楓を想像しながらだ。


翌日、由姫は大会運営に報告をした。学園祭が終わったら

またライブをすると言って、それを承諾してもらった。


その事を運営にだけでなく、由姫は美麗達の案でこれから

の活動を報告する為にSNSを使う事にした。その報告を

するのは美麗だった。これまでの調子やこれからの事を

報告すると安心したとファン達が返事をしてくれた。


そうして由姫達はまた活動を再開した。


まずは来週の学園祭でやるライブの準備をした。その

準備でスタジオに来た。由姫は健にも伝えて健も安心

した。由姫達はスタジオに入った。久しぶりに全員で

合わせる。すると洋子が初めてこのメンバーで合わせた

時の事を話た。


「やはり良いですね。こうして全員で一つの音を奏でるのは」

「洋子」

「ここは私が初めて自分が居ていいと思えた場所です。もう

離れたくはないです」

「そうね。私達はcrosswise。もう離れたりしないわ。この

メンバーで必ずプロになる」


由姫の声に頷く里奈達。それから練習にも力が入り、時間を

延長する程に。


そうして順調に進めて学園祭当日になった。


由姫達は自分達の店も手伝っていた。美麗達がその様子を

見に行くと、そこにはメイド服を着た由姫と里奈がいた。

その可愛さに男子達がいつも以上に由姫達のクラスに

集まっていた。それは廊下にも見学者が出る程だ。


由姫は恥ずかしくてあまり出ない様にしていたが、里奈が

引っ張ってメイドの仕事させていた。


午後、由姫達は体育館に向かった。この後ライブをする

為に準備をしていた。由姫はやっと着替えれると安心

していたが、里奈がこのままライブをしないと言って

きた。


「絶対しないわ」

「せっかく可愛いのに」

「こんなスカートで動いたら見えるでしょう」

「少しぐらいサービスしても」

「普通にアウトよ。早く着替えなさい」


着替え終わり、曲順を確認したりする。ステージにはもう

楽器が準備してあり、幕が張られている。美麗が袖から

客席の方を見るとすでに満員だった。学生だけでなく一般

の人達もいるので、二階まで満席だ。


それもこのライブをするとSNSで発信しているのでそれが

広まり、学校にはいつも以上に人が集まっていた。


「なんかすごいいるよ」

「うん。一番多く見える」

「まぁ学校の体育館ってそこらへんのライブハウスより

大きいからね。何千人はいるかも」

「外にもいるでしょうからね。その人達、いえこの学校に

来てる全員に聞こえるぐらいの音を出しましょう」

「そうね。私達を見にきてよかったと思える演奏をしましょう」


そうして由姫達は静かに時間が来るのを待った。客席も

近づくにつれて、盛り上がっていた。外にも大勢いて

今かと待っている。


そして、時間になり、体育館内にブザーが鳴り響いた。


少しずつ幕が上がるとそこに由姫達がいた。でも、演奏は

まだしない。全員が止まった様に動かない中、由姫が

スタンドマイクを横にどかした。


それを見て全員が静まり返った。その中で由姫は歌い

始めた。それは演奏も何もないアカペラだ。


その歌は外にも聞こえていてさらに人が増え始めた。


由姫はなんと演奏もマイクもなしで一曲アカペラで

歌い切った。それが終わると数秒だが、数時間とも

取れる様な静寂が一気に拍手喝采に変わった。


それから里奈達の演奏も入り、いつものライブが始まった。


最後まで誰も帰る事なく無事にライブは成功した。それは

二日目も同じで由姫の本気の歌が話題になりマスコミ関係

も多く見に来ていた。その中で昨日と同じくアカペラを

披露した由姫。ライブは大成功をした。


それが証明される出来事も起こった。それは翌日、いや

その日の夜には普通にニュースで由姫達が取り上げられた

事だった。


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