第11話 楓はこの世に存在しない夢幻(まぼろし)!?
会場内は満員だ。crosswiseの単独ライブ。時間は一時間程。あの動画の
効果もあり、全国からファンが集まった。それをステージ横で
見ていた由姫達。
「めちゃいるよ由姫さん」
「そうね」
「冷静ですね美波さん」
「人数は関係ないわ。むしろ一人、誰もいない方が怖いわ。でも
ここはそうじゃない。だったら全力でするだけよ」
「由姫さん」
「よっし、私も全力で」
「あなたは抑えなさい」
そんなやりとりをやりながら、始まりのブザーが鳴った。
本来ならすぐに歌い始めるのだが、今回はいつもと違いインスト
から始めた。キーボードの演奏が聞こえ、会場は静まり返る。
そして、徐々に幕が開く。そこにはまだ誰がいるかわからないぐらいの
照明で照らされていた。少しずつそれが明るくなり、キーボードの
ブースが二箇所照らされた。
左に美麗が、そして右には楓がいた。それに気づいたファン達が
ざわつく。楓が参加する事は伝えてなかったからだ。
その二人がいや、楓が一人演奏を続ける。美麗は片手で弾いてる
ふりをしていた。
そうしてそのインストが終わり、一度照明が落ちた。そこから
楓だけにライトが照らされる。ここにいる人達なら楓を知らない
人はいないのでその衝撃と驚きが会場内を覆っていた。
その楓は淡々演奏し、片手を天に掲げ、振り下ろした瞬間に由姫達
が姿を見せた。そこから三十分程ノンストップで演奏は続いた。
美麗はブースから前に出てショルダーを持ち、いつもと違う
ポジションで演奏をした。
半分程演奏が終わり、由姫が話し始めた。その中で美麗が怪我を
してしまった事と、そのスケットで楓を呼んだ事を話した。
今回のライブには色んな音楽関係者も来ていた。雑誌はもちろん
テレビや動画配信、そして有名な音楽会社も多数いた。
そこで楓との実質のコラボに取材してた人達は楓に注目した。
それから演奏が再開し、最後の曲にPVにしたcrossingを
演奏する。バックのモニターにそのPVが流れファン達は
拍手をしたが、その演奏が始まる時には楓の姿はなく
参加せず、いつの間にかいなくなっていたが、美麗が
ショルキーで演奏をし、由姫が最後に今日の主役と美麗を
持ち上げ、会場が拍手喝采をした。
ライブが終わり、全員が一列になり、ファン達挨拶をした。
拍手と美麗への励ましの声が由姫達がいなくなるまで続いた。
楽屋に戻り、美麗はソファーに倒れ込む。
「お疲れ様美麗」
「お疲れ夕子」
「手、大丈夫?」
「なんとか。本当に片手しか動かしてないしね。これもキーボード
だからできる芸だよ」
「美麗、ありがとう。あなたが出なかったらやっぱり違う音に
なってたと思うわ。彼と一緒ではあるけど、あなたがいてよかった」
「由姫さん。そう言えばその彼が」
由姫達も楽屋や他の部屋を探したがすでに楓の姿はどこにも
なかった。電話をするがでない。すると、美麗のラインに
楓から送られてきた。そこにはお疲れと、飯の事を忘れるな
と書かれてあった。
「彼らしいですね」
「そうね。なんか助けられてばかりね」
「そですね」
そうして無事に夏休み最後のライブは無事終了した。その翌日、由姫達の
ライブは話題になった。美麗の怪我もそうだが、やはり楓が参加した
事が全国に広まり、賞賛された。
由姫達は学校が始まる。生徒達が登校する中、その門の前には色んな
マスコミが集まっていた。それを見て由姫は裏から回った。あまり
聞かれるのは好きじゃないのでそれを避けた。洋子は大丈夫だと
思うが、特に美麗達にはあまり話さないように、特に楓の事はただ
手伝ってもらっただけと言う様に連絡した。
始業式の中にもマスコミはいて、二学期初日はずっと由姫達の事で
話題は持ちきりだった。
この日は午前中だけだが、普通に帰るとマスコミに捕まるので
由姫は全員を集め、先生に頼んで車で送ってもらう事にした。
「すいません先生」
「大丈夫だ。でも、せっかくなら会見でもすればいいのに」
「私達はまだプロではありませんから。ただの学生です」
「もう全国的に有名だと思うけどね」
一人ずつ家まで送ってもらい、由姫と里奈は一緒に下りた。一度
部屋に戻り、後から里奈が由姫の部屋に来た。
「それにしてもすごかったね。これで大会でも有利になるかな」
「それはわからないけど、見に来てくれる人は増えるわ。特に
今月の終わりから始まる予選には」
「そうだね。ファンが多ければそれだけ投票されるからね。これで
どこまで行けるかだね」
「どこまででも行くわ。私達が一番よ」
「だね。それでさ彼とは連絡とれた?」
「いえ、誰も連絡が取れないわ」
「どこに行ったのかな?彼のバンドメンバーは出てるけど、その
本人がどこにも姿を見せないんだもんな」
「心当たりはあるわ。今度探してみる」
由姫はなんとなく楓がいそうな場所を気づいていた。その週の休日
楓がいるだろう場所に向かった。そこは少し駅から離れた所に
あるラーメン屋だった。
由姫は一応帽子とメガネをして変装をしている。なので普通に店に
入り、中を見渡す。すると、一番奥に楓がいるのを見つけ声を
かけた。
「隣いいかしら?」
「空いてるから構わん。俺の家じゃないからな。よくわかったな」
「なんとなくね。この前はありがとう。それを言いそびれたわ」
「そうか。あいつは大丈夫か?」
「ええ。美麗は大丈夫よ。それより」
「こっちも問題ないっと言いたいが、うちの馬鹿共が普通に
話してやがるが、まぁ何も困る事はないから特には言わんが」
「それで、大会予選は」
「問題ない。俺らが負ける要素はない」
「私達にも?」
「無論だ」
「そう」
そこから何も話さず、食事をした。当然、楓は店のメニューを全部
注文し、食べ尽くした。由姫も頑張った?が流石についていけず
この間休んだ公園のベンチで横になる。
そこに楓がジュースを持ってきて由姫に渡した。由姫は起き上がり
楓は横に座る。
「ありがとう」
「気にするな。後で金はもらう」
「そこはしっかり取るのね。ねぇあなたの事、聞かせてくれないかしら」
「いくら出す?」
「・・・・・・デート一回」
「飯は入ってるか」
「もちろん」
「そうか」
楓はジュースを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れた。それから自分の事を
話したが、由姫達の事は出てこなかった。出てきたのは親に捨てられ
今は一人で暮らしているという事だった。それを聞いて由姫は
謝った。そして最後にもう一度聞いた。
「孝弘」
「違う。俺はこの世に存在しない霧沢楓という
「夢幻」
楓はそのまま帰ってしまった。由姫も家に戻り、ベッドに
横になって楓の事を考えていたが、何故か涙が流れて来て
考えないようにしようと思い、眠りについた。
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