第二章〜㉕〜

7月23日(金) 天候・晴れ


 翌日も、朝から眩しいほどの太陽が輝き、猛暑日になることが容易に想像できる晴天だった。

 前日、大学訪問をすることに決めたあとも、オレたちは、閉館時間である午後六時まで図書館に残って、文献調査続けた。

 といっても、もちろん、オレの方は、小嶋夏海ご推薦の解説本『史上最高に面白いファウスト』を読んでいただけなのだが……。

 高校二年生の夏休みと言えば、感染症さえなければ進学希望の生徒には、志望校のキャンパス訪問が推奨される時期らしいが、昨今の情勢を鑑みて、我が校でも、夏休み前もオンラインでのオープンキャンパスという、どれほど効果が期待できるのか不明な催しを薦められた。

 そんな中でも、大学訪問を行おうという奇特な二名、小嶋夏海と坂井夏生は、午前中から旧帝国大学の流れを組むキャンパスの総合図書館に足を運んだのだが――――――。


「感染症の影響で、学外の人間は大学図書館を利用できない可能性もある」


との彼女の懸念のとおり、附属図書館の入り口には、


《感染症対策のため、学外の方の図書館利用は、ご遠慮いただいております》


という張り紙が貼り出されていた。

 私鉄の最寄り駅から徒歩二十分をかけて炎天下を歩いてきた身にとっては、ガックリと来る告知内容であったが、オフライン(?)でのオープンキャンパスが開催されない現状では、致し方のないことだろう。

 さらに、スマホで大学附属図書館の案内を調べてみると、論文の掲載誌などの『貴重図書』については、事前の閲覧申し込みなどが必要だったようだ。


「ゴメン……わざわざ一緒に来てもらったのに……昨日、大学図書館に電話して、確認しておくべきだった……」


 小嶋夏海は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするが、単なる付き添いのような身の自分としては、彼女を責めるつもりはない。


「まぁ、こんな時期だし仕方ないんじゃね? オレとしては、小嶋に誘ってもらわなけりゃ、この大学のキャンパスに来られるチャンスもなさそうだし、貴重な機会に感謝だ。論文を確認するなら、感染症が治まってから、また来ればイイさ」


「――――――ありがとう。そう言ってもらえると、助かる。そうね、また、このキャンパスに戻ってくれば良い……」


 彼女は、感謝の言葉を述べたあと、何かを決意したかのように、つぶやいた。

 落ち込んでいる様子だった、研究調査のパートナーを励ますと言うよりは、あくまで、こちらの本音を語ったつもりなのだが、彼女の気持ちが楽になったのなら、それに越したことはない。


「で、どうする? ちょっと、時間は早いけど、ネコリナを置いてるショップに行ってみるか?」


そう提案すると、


「うん! 坂井が構わないなら……」


と、了承を得たので、本日の学術調査は打ち切ることになった。

 ここから、本日の第二の目的地である雑貨屋に向かうことになるのだが……。

 酷暑の中を再び二十分も歩くには、水分と鋭気を補充する必要がある、と二人ともに判断し、図書館に歩いてくる途中で見つけた学生交流課のラウンジで一休みしてから、大学を離れることにした。

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