第一章〜⑯〜
一方の小嶋夏海は、早々とやきそばパンをたいらげ、一緒に買っていたパック入りのフルーツ・オレを飲み干すと、彼女のスマホとノートを取り出して、両者を見比べたりしながら、何やら確認を始めている。
学食のメニューらしく、コシの無い麺をすすりながら、その様子を眺めていると、
「授業中は、スマートフォンを出す訳にはいかないから……気になることや、わかったことをこのノートに書き溜めておいたの」
と、彼女は、珍しくこちらが聞いてもいないことを語り出した。
「こんな時期にも、ずいぶんと勉強熱心だな、と思ったら、そんなことしてたのか?」
自分の考えが想定外の答えとなって返ってきたことに驚きながら聞き返すと、木製細工を取り出して、こちらにかざし、前のめりになりそうな勢いで、たずねてくる。
「こんなに、面白いことなんて、なかなか無いじゃない? 坂井は、コレの持ち主なのに気にならないの?」
「そりゃ、オレも気になるけど……まだ三〜四回程度しか使ってないから、わからないことだらけだし、その《機能》を頻繁に使うのは、ちょっと注意した方が良さそうだ、と思ってるところだ」
今のオレ自身の率直な感想を答えると、小嶋夏海は、「ふ〜ん」と、つぶやいた後、
「そりゃ、何か悪だくみをして、私に見つかったりしたら、マズいもんね」
と、ジト目で、こちらを軽くにらんでくる。
「そ、それは……」
後ろめたさに言いよどむオレに、彼女は続けて、
「まぁ、これから、そのことについてもタップリと聞かせてもらおうと思うから…… 食べ終わったのなら、サッサと食器を片付けてくれば?」
と、言って学食の食器返却口を指差した。
「そうだな。ついでに小嶋のも片付けて来るわ」
オレは、そう言ってから立ち上がり、彼女の座席の方に回って、パンを包んでいたビニールとドリンクのパックをトレイに乗せる。
「あ、ありがとう」
小嶋夏海の謝礼の言葉を背中に受けながら、ゴミ箱と食器返却口を経由して、再び席に戻った時、彼女は、準備万端という感じで、二人で会話を始める気迫にあふれているようだった。
オレが、席に着くや、目の前の女子は早速、口を開く。
「聞きたいことが、たくさんあるから、まず、単刀直入に聞かせてもらうケド……このオブジェは、いったい何なの?」
金曜日に、オレから奪い取った木製細工をかざしながら、彼女がたずねる。その直球の質問に、期待した回答を返してあげられない自らの不甲斐なさを申し訳なく思いつつ、軽くため息をついて、
「こっちも率直に答えさせてもらうと、ソレが何なのか、スマンが正直、オレにも良くワカラン」
正直に答えたところ、小嶋夏海は、失望したような表情を見せる。
ただ、オレが続けて、
「先週木曜日の誕生日に、亡くなった
と、彼女が《オブジェ》と呼んだ《木製細工》を手にした経緯を説明すると、明らかに表情が変わった。
そして、小嶋夏海は、また、興味を持った、という感じでたずねてくる。
「じゃあ、これは、坂井のおじいさんの形見ってこと?」
「形見と言ってイイかどうかワカランが、祖父さんは、遺言でオレが十七歳になったら、その木製細工を『渡すように』と、ウチの父親に伝えていたらしい。ただ、説明書やマニュアルの類は、まったく無かったから、オレも、その使い方については研究中ってとこ」
そう答えると、彼女は、「そっか……。そうなんだ」と、つぶやき、
「ねぇ、こんな不思議なアイテムを持ってるなんて、坂井のおじいさんって、どんなヒトだったの?」
と、たずねてきた。
「う〜ん……オレが、ガキの頃から興味深い話しをたくさん聞かせてくれたりして、楽しませてくれたけど——————。特に変わったところはなかったと思うんだよな〜。若い頃は、
オレが、そう答えると、
「今は、まだそこまでしてもらわなくてもイイかな……」
と、彼女は少し微笑んだように見えた。そして、
「ところで、坂井は、このアイテムの能力について、どこまで知ってるの?」
興味津々といった感じで聞いてくるので、こちらが知っているだけのことを答えることにする。
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